作品情報
若くして小説家としてデビューするも、その後は鳴かず飛ばず、遂には結婚を前提に同棲中だった恋人にも去られ、鬱屈とした日々を送る慎一(山田裕貴)。そんな彼のもとに、職場の先輩で友人だった邦博の元妻・裕子(松本まりか)が、幼い息子アキラを連れて引っ越してくる。慎一は恋人と暮らしていた一軒家を、離婚して行き場を失った 2 人に提供し、自身は離れのプレハブで寝起きするのだという。「迷惑をかけて申し訳ない、家が見つかったらすぐに出ていくから」と慎一に詫びる裕子。だが、恋人の去った家に一人暮らすことを重荷に感じていた慎一は、親子が部屋を使ってくれることにどこか安堵していた。こうして始まった、彼らのいびつな「半同居」生活はどこへ向かうのか……。
『夜、鳥たちが啼く』レビュー
『ビリーバーズ』の衝撃が記憶に新しい城定秀夫監督による2022年最後の新作。2023年も『恋のいばら』や『放課後アンダーライフ』『銀平町シネマブルース』とすでに新作が3作も待機中となかなかの仕事人だ。
ピンク映画出身の城定秀夫とあって、さすがに『ビリーバーズ』とまではいかないが、今作においてもピンク映画を少し匂わせるような演出は健在で、そこに松本まりかの水っぽさがよく映えるといったところ。
売れない小説家・慎一が住む家に越してきたシングルマザーの裕子。慎一は外のプレハブで生活をしており、一緒に住んでいるというわけではないが、裕子の住む家には、慎一のかつて結婚の約束をした恋人の残像がまだあり、時おり裕子やその息子のアキラを見ると、「もしも結婚していたら、もしも家族ができていたら……」といった、叶わなかった未来の幻影がダブる。
互いに傷ついている慎一と裕子だが、その間には微妙な距離感がある。その距離感の正体は物語が進むにつれて徐々にわかってくる構造となっている。
一時的でもいいから、傷を舐め合うような関係になっていくが、その未来は希望に繋がるのか、それとも破滅に繋がるのか。
未来のことなどわからなくてもいい、何の確証もないかもしれない。慎一も裕子も恋人といえる関係とは言えないだけに、吹けば飛ぶような疑似家族かもしれない。だけど今はそれでもいい……。
家族という言葉に捉われることよりも、人が人を支えて生きることの本質に迫ったような作品となっている。
脚本を務めた高田亮は、作品自体が良い悪いは置いおいて、『裏アカ』や『グッバイ・クルエル・ワールド』、『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』であっても、異質な他者同士の繋がりを描くのが非常に上手い脚本家であるだけに、正に今作は本領発揮といったところではないだろうか。
点数 84
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