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この映画語らせて!ズバッと評論!!『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』規制され、デジタル化された現代には「自由」はあるのかという社会風刺!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』規制され、デジタル化された現代には「自由」はあるのかという社会風刺!!

作品情報

人気アニメ「クレヨンしんちゃん」の劇場版28作目。『ラブライブ!』『宝石の国』などの話題のアニメを送り出してきた京極尚彦が監督を務め、脚本を『婚前特急』『そこのみにて光輝く』などの実写映画を手がけてきた高田亮が担当する。地上の落書きをエネルギーに浮かぶ王国「ラクガキングダム」は、時代の流れで地上から落書きがめっきり減ったことで崩壊の危機に直面。人間たちに無理やり落書きをさせる「ウキウキカキカキ作戦」を決行し、地上への進撃を開始する。一方、ラクガキキングダムのお姫様は、描いたものが動き出すという王国の秘宝「ミラクルクレヨン」を持ち出し、決死の覚悟で地上に託す。ミラクルクレヨンを手にしたしんのすけは、実体化した落書きたちと力をあわせて平和のために立ち上がるが……。

『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』レビュー

新型コロナウイルスの影響で公開が危ぶまれた、東宝アニメ映画BIG4(ドラえもん、名探偵コナン、ポケットモンスター、クレヨンしんちゃん)だが、なんとかドラえもん同様に年内公開に滑り込むことができ、ポケモンも12月ギリギリで公開決定となった。コナンだけが丸々1年延期になったのは疑問だが..

個人的には、テレビシリーズはもう観なくなってしまったが、全ての劇場版は観ている。ここ10年は当たりハズレが多く、映画館で観たのは、3年振りだった。

かつては、劇場版にはハズレなしという、クオリティを誇っていた「クレヨンしんちゃん」だが、近年は失速気味で、失望したくなくて劇場で観なくなってしまったのだが、何故だか今回は「観たい」と思わされたのだ。

映画28作目でクレヨンしんちゃんが「クレヨン」を持つというのが、何だか意味がありそうだったからだ。今回「クレヨン」は現代人が失いつつあるもののメタファーとなっていて、久しぶりに現代社会風刺映画としても観ることができて、かつて「クレヨンしんちゃん」がやってきたカウンターカルチャーに原点回帰したようで非常にクオリティが高い。

近年作としては、全体的な躍動感としては惜しかった『映画クレヨンしんちゃん 爆盛!カンフーボーイズ 拉麺大乱』のハードルを軽く超えてきた。

デザイナーが描いたアート的キャラクターや「ウゴウゴルーガ」の様な奇抜なキャラクターが多数することで、「クレヨンしんちゃん」のトーンとは混ざり合わず、分離したようなサイケデリックな世界観が正に映画のテーマのひとつでもある「自由」感を象徴しているようだ。

今作には、敵の目的が自国を崩壊から守るためという、世界征服や私欲ではない目的からであり、子供たちに無理やり絵を描かるが、国の崩壊が止まらない。

無理やり絵を描かせても意味がない。学校では奇抜な絵を描くと、カウンセラーに呼び出されたりしてしまう様に何かと理由付けをしては、子供の自由な発想を社会が奪い、量産される一定の価値観のもとで人格が作られてしまうということで、何でもいいから自由に描いてと言われても、「自由」自体が大人の概念による規制で固められていて、本当は「自由」ではないという、物凄い社会風刺なのだ。

現代社会における子供の自由な発想が奪われて、教育しているはずの大人が批判ばかりで行動しない。

この映画で描かれている「落書き」とは、単純にそのままの意味であるが、同時に現代社会における子供たちが失ってしまった「自由」に対してのメタファーでもあるのだ。

映画オリジナルキャラクターのユウマが「ミラクルクレヨン」も使える設定にしなかったり、最後までタブレットは手放さなかったのも、デジタル化された現代の中でも子供の自由な発想というのは、失われることはないという希望も示している。

今後の子供たちが育っていく環境からは、デジタル化は排除することはできないし、それは非現実的であることで、デジタル化を完全否定はしておらず、共存を示したのだ。一方が悪い、一方が良いと言っていたら人間は成長しないし、人間は歴史において、そういった葛藤を繰り返してきたわけだから、今が正にその境界線に立たされている子供たちの姿としてリンクする。

「なんでこうなっているのだろう?」という疑問点や伏線をしっかり回収してくれていて、細部にこだわっている。意味のなさそうなシーンやツッコミ所かと思わせたシーンが実は理由があったりと、物語の組み立て方が上手い。

しんのすけが戦車や戦闘機や車の絵を描くシーンがあるのだが、どれも不完全で実物とは違うものだったりする。これは、あくまで子供のイメージだからこそ、意思を持たない物体や乗物は外見のみでスカスカですぐに壊れてしまう。

何故、アクション仮面やカンタムロボを描かなかったのかと予告を観た段階から、ずっと疑問に思っていたのだが、映画を観ると答えがわかる。

絵が描けないかといえば、そうでもなく、テレビシリーズでも映画版の中でも何度かアクション仮面は描いていたはずだ。『クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』と同じメンバーにしたくなかったという理由も考えられたが、大きな理由はあまりアクション要素を強調したくなかったのと、「別れ」を描くためには、既存のキャラクターではない方がよかったということだ。

脚本家がアニメよりも『セーラー服と機関銃 卒業』『猫は抱くもの』などの実写映画を多く手掛けてきた高田亮が担当しているため、近年の「クレヨンしんちゃん」の中では、抜群に脚本が映画的に良くできている。一方で、なつかしいロードムービー要素や食品売り場でのバトルという、ファンの観たいところを分かっているのも素晴らしい。

是非、次回も映画の脚本家を参加させてほしい。

点数 87

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