作品情報
おとぎ話のように始まった幸せな結婚生活は、夫で警察官のラビがアムーに暴力をふるったことをきっかけに壊れてしまう。一度きりの出来事だと信じ込むアムーだったがすぐに暴力は日常化し、彼から逃げられない彼女は魂と生気を失ってしまう。そして限界が訪れたアムーは、自由を求めて意外な人物と手を組むのだった。
『アムー~負けない心~』レビュー
今作は、Amazonプライムビデオオリジナル映画やドラマは、ことごとく輸入してこないAmazon Japanが珍しく日本でも配信した作品であることにも注目してもらいたい。
おそらく試験的に日本でも配信してみたという感じだろうが、いまいち観られていないのか、次に配信された『パラヴィの見つけた幸せ』が日本語字幕なしで放置状態となっている。
『RRR』でインド映画が沸いているといっても、そこから先に繋がらないのが日本におけるインド映画供給率問題をおもしろいほど表しているともいえる。インド映画に興味を持ったのなら、まず簡単に観れる配信作品にも手を出してもらわないことには、ただでさえ少ないというのに、さらにどんどん配信作品が減ってしまってしまう。ただそれは別の問題として、今後扱っていかなければいけないと思っている。
それはさて置き、今作を観ると、改めてインドが女性蔑視というイメージが付いているのを何とか変えたいという動きが活発になってきたと感じることが多いと感じる。
2000年後半からゾーヤー・アクタルやファラー・カーン、ショナリ・ボーズといった女性監督が続々と活躍できる場が増え、特にグローバル化に向かっていたボリウッドは積極的に女性の地位を向上させる作品を多く制作してきていた。Netflixは『グンジャン・サクセナ -夢にはばたいて-』や『おかしな子』『美に魅せられて』など、逆にプロパガンダのように女性の強さを描いた作品を多く配信している。
しかし、近年で大きく変わったのは、ミソジニー(潜在的女性蔑視)を描くようになってきたということだ。
今までにも女性蔑視について描かれた作品は多くあるが、表面上のわかりやすい暴力や暴言といったものが多かった。それは問題意識が表面上で止まっていたからだ。アミターブ・バッチャン、タープスィー・パンヌー主演の『ピンク』では、レイプされそうになった女性側が、権力のある男性側から訴えられる裁判模様を描いていた。
これは男性側が女性を自由にできると思い込んでいたことが原因で、レイプされそうになって抵抗した女性が、そして男に手をあげることが、あり得ないことだと意識的にインプットされているからだ。
『グリーンブック』の中で人種差別はいけないと理解しているけど、風習的に差別意識が残っていることが描かれていたように、女性蔑視はよくないけど、根底にある意識、特に親世代から受け継がれたものがぬぐい切れていないという、そもそもの構造上の問題に触れるようになってきた。
今作も夫は、それなりに地位があり、部下や市民にも慕われている警察官であり、実際に正義感も強く、女性や子どもに親切である。しかし、家庭となるとそれは別で、妻は夫に尽くすべきだという考えがある。つまり極端なことを言うと、女性と妻は別だという考えなのだ。
これは偶然にもアーリヤー・バット主演の『ダーリンズ』が同じテーマを描いていたし、『トリバンガ ~踊れ艶やかに~』や『グレート・インディアン・キッチン』もそうだ。
ミソジニーについては、韓国でも『オマージュ』や『82年生まれ、キム・ジヨン』など、年々扱われる数が多くなってきたように、インドだけに限らず全世界共通の問題であるが、ジェンダーギャップ指数がいちじるしく低いインドにとっては、一刻も早く変えたいという意識が強いことが作品を通して伝わるようになってきたというのが大きな前進といえる。
展開の突拍子のなさに疑問的は残るし、そこはまだまだインド特有のストーリー構成の問題を引きずっていると感じられる部分はあるが、良くも悪くも劇場作品ではないからこそ描けるテーマであることに間違いない。
点数 86
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