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発掘!未公開映画研究所【インド映画編】『トリバンガ ~踊れ艶やかに~』気づいたときには遅すぎる、秘めた母の想いを知るとき…

発掘!未公開映画研究所【インド映画編】『トリバンガ ~踊れ艶やかに~』気づいたときには遅すぎる、秘めた母の想いを知るとき…

作品情報

何かとお騒がせなボリウッド女優アヌラーダの母が突如、倒れる。母は作家であり、自叙伝を執筆中であるが、なぜか自分では書かず、作家のミランに代筆させていた。アヌラーダと母との間には溝があったものの、母か倒れたことでとっさに駆けつけてきたが、マスコミが嗅ぎつけてきたことで、変に動きがとれなくなったこともあり、母に付き添うようになる。同じく付き添う、作家のミランを目の敵にするが、ミランが取材した素材から、アヌラーダの知らなかった母の顔が見えてくる。母とアヌラーダ、そして娘のマーシャを通して描かれる三世代の親子が味わってきたインド特有の女性蔑視による社会悪が浮き彫りにされていく…。

監督・脚本・出演

監督:レーヌカ・シャハネ

脚本: レーヌカ・シャハネ

出演:

『マイネーム・イズ・ハーン』『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』カジョール

『デュオ』ミティラ・パルカー

『アズハル:疑惑のスター選手』クナール・ロイ・カプール

発掘!未公開映画研究所とは?

宗教性の問題、出演者の知名度、お笑いの感覚の違い…などなどの理由によって、日本では公開にいたらない作品が多く存在する。アカデミー賞にノミネートされている作品でも未公開作品は多い。

それもそうだろう、逆にアメリカやフランスで日本の映画が何でも公開されていると言えばそんなわけもなく、全体的に見て1割にも満たないだろう。

日本はそんな中でも割と海外の作品を公開している珍しい国であって、そんな中でもやっぱり公開されない映画というのは山のように存在する。

「発掘!未公開映画研究所」はそんな映画を発掘していくというもので、その中でも更に知名度が低いものを扱っていくつもりだが、必ずしも良作ばかりではない、中には内容がひど過ぎて公開できなかったものもあるのでご注意を!!

そして…未公開映画の宝庫でもある国を見つけてしまった。それはインド映画である。年間1900本前後の映画が公開されているインド。そんな状況にも関わらず、日本で公開されるのは20~30本といったところ。

このペースでは年間で1000本以上の未公開作品が蓄積されていることになるのだ。Netflixの普及によって、劇場公開されていないものやソフト化されていない作品が大量に観られるようになったものの、まだまだ足りない!!

そんなインド映画の魅力を伝え、もっと日本でのインド映画の開枠が広がることを願いつつ、未公開映画研究所のスピンオフ企画として「インド映画」を積極的に紹介していこうと思います。

今回紹介するのは『トリバンガ ~踊れ艶やかに~』

短評

ボリウッド女優アヌラーダの母ナヤンが自叙伝を出版することになった。自叙伝を代筆する作家のミランも入り浸るようになり、迷惑がっている。そもそも作家である母が何故、自分で執筆しないのかも謎である。

そんな中で母が突然倒れ、昏睡状態になってしまう。マスコミも嗅ぎつけてくる中、変に動きがとれなくなり、ずっと母に付き添うことになる。

アヌラーダと母の間には、簡単に解決できないような深い闇があって、自叙伝の執筆ほ進めるために、ミランは嫌がるアヌラーダにインタビューを始めるが、今まで母に言うことができなかった秘めた想いには、取材インタビューの中で母かすでに答えていて、過去の母の発言が回答になるという構造がなかなか巧妙である。

自叙伝を通して、母との関係修復を描くという点では、是枝監督の『真実』に似たテイストもあるのだが、今作は母子家庭親子の関係から、インドが抱える女性差別の闇を浮き彫りにしていく。

ナヤンは作家として成功して、作品が映画化もされている。今でこそインドでも女性が社会で活躍することが認められてきているが、ナヤンの若い頃は、まだまだ保守的な考えが強く、女性は男性を支え、家庭を守るものという概念に捕らわれていた。

ナヤンは子育てよりも仕事を優先させていたことに、義母からは罵倒され、夫は見て見ぬふりをすることが耐えられず、アヌラーダと弟のロビンドロを連れて家を飛び出し、離婚する。

インドは、離婚率が極端に低い。1~2%ともいわれるほど離婚が少ない。しかし、これは円満な家庭が多いからではなく、ヒンドゥー教においては離婚は悪であり、禁止行為。離婚した女性は社会的制裁を受けることになるのだ。

浮気などの場合だと、親族の顔に泥を塗ったということで、直属の親族が娘を殺害する「名誉殺人」というものもあり、年間で1000人の女性が親族によって殺害されているという驚きのデータもある。離婚率が低いのは、こういった行き過ぎた風潮が圧力となっているからにすぎない。

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』 においても、キールティ・クルハーリー演じるネルは夫からの暴力から逃げるために家を出たが、理由がどうであれ、離婚・別居をしている女性は賃貸契約ができない。世間からも冷たい目でみられるのは、暴力夫ではなく、常に女性側であるということが描かれていた。

近年であっても、こんな女性蔑視が蔓延っているのだから、ナヤンが若い頃は、もっと厳しかった。妊娠した子供が女だった場合は、親族が中絶を勧めることもあり、今作や『シークレット・スーパースター』でも描かれていた。

ナヤンも苦労したかもしれないが、作家としての地位を築いていたこともあり、離婚の制裁を受けたのは、主に子供たちだった。

本来ならば、差別から子供を守るべき立場にあるはずの学校の教師でさえも、離婚して名字が違うことを笑いものにする。特殊なケースではなく、これが一般的というのが驚きである。

アヌラーダが14歳のとき、母は写真家のヴィクラムと再婚。やっと幸せになれると思っていた矢先、ヴィクラムから性的虐待を受けたことで、その頃から離婚し、再婚した母、そして虐待に気づくことができなかった母に対しての憎しみが芽生え、そこが大きな分岐点となり、溝は深まる一方であった。

負の連鎖は収まらず、女優になったアヌラーダは結婚しない状態で娘のマーシャを身ごもり、皮肉なことにマーシャの父親である相手からの暴力で別れ、未婚の母となる。

そしてマーシャもまた、未婚の母の存在に苦しむことになり、マーシャもまた、打ち明けられていない闇を抱えていた。

三世代に渡る親子を通して描かれるインド社会の女性蔑視の闇は容赦がない。

インタビューや記録を通して、溝が埋まっていくようで、次第にアヌラーダの母への想いも変化してきて、心が解放されていくようでもあるのだが、やっと分かり合えると思ったのにも関わらず、残酷な結末が待っている。

非常に後味の悪い結末ではあるが、後悔後に立たずといったところで、これこそが現実の残酷さとも思わされる。約90分というインド映画にしては、なかなかスマートではありながら、非常に濃い内容の作品である。

監督のレーヌカ・シャハネは女性ということもあり、女性から見たインドの社会悪が色濃く反映されていたようも思えるし、母に対しての想いというのも監督の心情がいくらか反映しているのではないだろうか。

『トリバンガ ~踊れ艶やかに~』はNetflixで現在配信中

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