作品情報
お酒を飲むのをやめてくれれば、横暴な夫も変わってくれると信じて耐えてきた妻。だが夫の行動が取り返しのつかない結果を招いた時、彼女とその母親は大胆かつ無謀な報復計画を実行に移す。
『ダーリンズ』レビュー
Netflixで配信中のドラマ『デリー凶悪事件』にも出演している名女優シェファリ・シャーと若手実力派女優アーリヤー・バットの共演にも注目が集まる今作。
『THE JUON/呪怨』にサラ・ミシェル・ゲラーが出演したとき、そんな怨霊、ぶん殴ればいいのにと思ったけど、今まで男を殴ってきて、インドで強い女性の象徴としての役回りが多かったアーリヤーが、ことごとくDV夫ハムザに痛めつけられる女性バドルを演じている。
最初は違和感を感じるものの、物語の展開上、これはアーリヤーの強さがあってからこその作品であることがわかってくる。
時代が変わりつつあり、女性の社会進出なども活発になった一方で、潜在的に受け継がれてしまった女性蔑視、つまりミソジニーが問題視されているインドの社会事情を背景としているものの、結婚後に狂変するDV問題に関しては世界共通である。
殴りつけたかと思えば、急に優しくなったり、泣き出して許しを請うたりするがゆえに、DVの泥沼から抜け出せない。加害者意識ではなく、常に被害者であるかのような精神状態だからこそ、DVとは厄介なものなのだ。
正当防衛のつもりが、いつしか過剰防衛になり、同等になってしまうこともある。そこには自分自信が心底嫌っていたり、今まで関わらないで生きてきた”暴力”や”憎悪”、”殺意”なども芽生えてしまう。DVによる関係の行く先が、いかに暴力の摩擦による結果が悲惨なものかを象徴しているのだ。
バドルの母シャムシュは、比較的リベラルな考えの持主で、辛いようなら夫と別れてしまえばいいと提案してくる。しかし実際問題、インドにおいて離婚することは、社会から疎外されることから、未亡人になることが一番いいと考えていて、冗談なのか本気なのか、夫を毒殺するように仕向けてくる。
一方では、バドルがとった行動に戸惑いをみせたりする点からは、あやふやが態度にも思えるが、それはシャムシュ自信が同じような体験をしていて、娘に対して同じ道を歩ませたくないと思う一方で、女性が単身で生きる辛さも知っているからだ。
愛情から愛と情が分離し、愛が消え、情が消えたのちに残るもの、それは何だろうか。人間関係のひとつの終着点としては悲し過ぎるのではないだろうか……。
ブラックコメディとしてコーティングしてあるものの、決して笑えない現実問題がそこにはある。
Netflixはインド女性の強さを象徴するような作品を、定期的に製作しているし、ちょっとやり過ぎな部分もあるが、家庭内暴力への抑止としては機能するのではないだろうか。
ジェニファー・ロペスの『イナフ』を少し思い出した。
ちなみにハムザの着信音が『恋する輪廻』の「Main Agar Kahoon」になっているのは、シャー・ルク・カーンの奥さんで今作のプロデューサーでもあるガウリ・カーンの影響か??
点数 84
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