作品情報
結婚生活を短くして夫を亡くしてしまったサンディア。葬儀に集まる親族や親戚、関係者たちは、サンディアを心配するが、サンディアはあまり悲しさを感じられないでいた。そんな中で夫の遺品の中から、女性の写真を見つけてしまうサンディア。その相手がいったい誰なのかが気になってしまい、その女性を捜すサンディアだったが、葬儀の挨拶にやってきた会社の同僚の中にその女性を見つけるのだが…。監督・脚本を務めるのは『O Teri』『Hero』などのウメーシュ・ビスト。主人公サンディアを演じるのは、『フォトグラフ ~あなたが私を見つけた日~』『LUDO ~4つの物語~』のサニヤー・マルホートラ、共演に『お気楽探偵アトレヤ』のシュルティ・シャルマなど。
『おかしな子』レビュー
何でこんなタイトルなんだろうか…ということは、とりあえず置いておいて、インド製人間ドラマ映画として傑作がまた誕生したというのに、何だか配信開始されていることも気づかれにくいというのは、残念でならない。
教養をうけ、結婚して男性を支えるために育てられ、学生生活も送ってきたサンディア。親の敷いたレールをそのまま進んできて、結婚こそが女性の幸せであると信じてきた典型的なステレオタイプなインドの女性像である。
他国と同様に女性の社会進出も活発化しているとはいっても、まだまだ古い価値観や概念の中で生きている女性も少なくないし、結果的に好まれるのは、家庭的であり、自分よりも男を立てるような女性であったりする。
サンディアはその点では、お嫁さんとしては理想的な女性ではあるのだが、自分は何ものであるかという実感ない。日々の生活と古い概念によって、そういったものをあえて考えないようにしている女性も多い中で、サンディアは結婚生活わずかで若くして夫のアスティックに先立たれてしまう。
流れ作業のように結婚したサンディアにとって、夫が亡くなったことにあまり実感がなく、悲しさも感じられない。夫は支える者だという認識はあったかもしれないが、恋愛的な感情がほとんどないのだ。
夫が亡くなったことで、忙しなく親族や関係者がサンディアの元を訪れてくる。個性的すぎる親戚たちはコミカルな要素もあり、ドタバタ劇のような側面もあるのだが、物語の核となるのは、サンディアの突如強いられる独立である。
そんな中、アスティックが大事にしていた女性の写真を発見してしまい、その相手が会社の同僚であることを知ったことで物語とサンディアの感情の変化は急展開をむかえる。箱入り娘として育ってきたサンディアにとって、その女性は独立していて、正にキャリアウーマンといった感じであり、活気に満ち溢れていて、サンディアの持っていないもの、あえてスルーしてきたものをいっぱい持っている。
嫉妬という感情だと言ってしまうには簡単すぎるような感情がサンディアの中では渦巻いていて、この感情というのは、インドという国の中で生きてきた女性だからこその感情という部分も大きいのだ。
問題はサンディアの感情や親族たちの悲しみといった、感情的なものだけでは留まらず、アスティックの稼ぎを頼りにしていたアスティックの両親や病気を患う祖母にとっては、経済的な問題も発生してくる。
子どもがいないサンディアにとって、夫不在の状態でアスティックの両親と同居する理由もなくなってしまう。しかも生命保険の受取りは全額がサンディアになっていて、このままサンディアが去ってしまうと生活ができなくなってしまうかもしれない。
何とかサンディアを留めさせようと、夫が亡くなったばかりだというのに、親戚との再婚を提案したりと、一見理不尽にも思えるかもしれないが、アスティックの両親や祖母のその後の生活を考えると綺麗ごとや感情論で解決できないということも理解できるだけに、観ている側も複雑な気分になってきてしまう。
インドの葬式というのは、宗教や家族の規模などによって、一概には言えない部分もあるが、今作に登場するアスティックの家族は13日間をかけて、様々な過程や行事、儀式などを行うのだが、それと同時にサンディアの今後の人生の決断へのタイムリミットは葬式が終わるまでということなのだ。
サンディアの決断には、古い概念で固められたインドの女性の成長と独立といった、インド独特のフェミニズム的側面も提示されていて、人間ドラマとして、かなり濃いものとなっているし、インド映画特有の長時間をかけて長々と描くものではなく、2時間以内という尺の中で、そんなドラマを描き、上手くまとめ上げている点も考慮すると、インド映画もいよいよ世界基準クオリテイの作品を仕上げてきていると感じないではいられない。
点数 88
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