作品情報
ジェンは友人5人とともにバージニア州の小さな町レンウッドを訪れた。アパラチア山脈の自然歩道でキャンプを楽しむためだ。自然歩道を満喫する一行だったが、好奇心からコースを外れて森の奥に入っていき、迷子になってしまう。仲間内で言い争いになりかけたその時、突如倒木が山上から転がり落ちてきて、一人が頭を潰され死んでしまう。気がつけば周囲は罠だらけ。彼らは“森”に囚われてしまったのだ。6週間後、消息を絶ったジェンを探しに父親スコットがレンウッドにやってくる。そこで彼が見たものとは……。
『クライモリ』レビュー
『13日の金曜日』『エルム街の悪夢』『テキサス・チェーンソー』などメジャーなホラー作品がこぞってリメイク、続編のサイクルを繰り返していた中で、その存在が隠れがちになってしまっている「クライモリ」シリーズではあるが、全6作も制作されているカルト的人気作だ。
『プロムナイト』や『ファイナルデッドコール 暗闇でベルが鳴る』などのメジャー作品のリメイクが未公開スルーになるなか、1作目は無事に日本でも劇場公開された。実はこれには理由があって、2003年頃から『24』によって巻き起こった海外ドラマブームを受けて、20世紀FOXが次に日本に輸入したのが『トゥルーコーリング』であった。このドラマの主人公トゥルーを演じていたのが1作目の主演を務めたエリーザ・ドゥシュクだったからである。
日本での海外ドラマブームがなければ、未公開映画になっていたかもしれい「クライモリ」も早いもので、公開されてからもう18年……。
しかしこのリブート、従来のリメイクやリブートとは少し毛色が違っている。「クライモリ」といえばミュータントの「マウンテンマン」だが、今作にはマウンテンマンがどこにもいない。
『ブラック・クリスマス』は男性至上主義的な映画業界や社会全体に対してのカウンター作品に変換され、『ゲット・アウト』『キャンディマン』では人種差別を扱っている。あるいは『ハロウィン(2018)』と『ハロウィン KILLS』ように殺人鬼に遭遇し、被害にあった者もしくは生存した者の人生への影響を描いているが、その対象は超人的な殺人鬼よりも、「暴力」という概念の蔓延のメタファーとされているように、シンプルなホラーではなく、この現実こそがホラーであるということを訴えかけている作品が多くなってきた印象が強い。
従来の怪物的殺人鬼が登場するシンプルな恐怖を観たいと思ってきた観客に対して「現実の方が怖い」と思わせることこそが、一種のステータスになりつつあるような感じもしてならない。
人口の少ない寂れた町や田舎に若者たちが興味本位で近づくと大変な目にあってしまうアメリカン・ホラーの典型的プロットには、保守的な土地や屈折した宗教観、価値観、人種差別への恐怖のメタファーとして、殺人鬼やモンスターなどが登場するし、オリジナル版も正にその王道を行くものだった。
今作においても、全体的なプロットは同じはずなのに、何かが違う。それはマウンテンマンが登場するかどうかの問題ではないどころか、今までのように、州によって全く異なる文化や宗教感などをメタファーとした人間性からかけ離れた存在は、もはや時代遅れとなりつつある。
例えば今作のように、森の中でコミュニティを作り、現代社会の概念に反した生活をしていること自体は、何も悪いことではなく、それを悪いことすることや、常識に反するという意識自他が、いわゆる一般的概念に基づいたものでしかない。
『ミッドサマー』も外から来た人間が、コミュニティ内の異常な調和や陰毛入りのお茶、奇妙な儀式などを一般的という偏った視点から見ていることで、変に感じているだけであって、時代が違っていれば、それも一般的だったのかもしれない。
今作においても主人公の視点だけではなく、カルトの視点や、行方不明になった主人公を探しに森にやってきた父親の視点が入り乱れることで、私たちが普段抱いているモラルというものが、視点を変えることで、かなり脆く幻想的なものに感じられ、何が正しいのか、その正しいという概念自体が正しいのか……という答えの出ないループが頭の中で繰り返される。
オリジナル版のガソリンスタンドのシーンに登場する汚い爺さんも実は害のない存在であり、今回もルッキズムによる裏切りが多様に仕掛けられている。「多様性」は、ティーンエンジャーやリベラルなLGBTQに限った言葉ではない。
点数 81
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