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この映画語らせて!ズバッと評論!!『aftersun/アフターサン』ある時、父の目には何が映っていたのだろうか……

この映画語らせて!ズバッと評論!!『aftersun/アフターサン』ある時、父の目には何が映っていたのだろうか……

作品情報

11歳の夏休み。普段は別々に暮らす父カラムとトルコのリゾート地を訪れたソフィは、あと2日で31歳になるカラムにビデオカメラを向け、問いかける。工事中のリゾート施設にたどり着いたカラムとソフィは、予約したはずのツインベッドの部屋ではなく、クイーンサイズのベッドのみが置かれた狭い部屋に案内されてしまう。やむなく簡易ベッドに眠ることになったカラムは、ソフィが眠りについたあと、バルコニーでひとりタバコを吸い、闇の中で踊る。兄と間違えられるほどに若く見えても娘思いの優しい父親であるカラムは、旅行のために最新の家庭用ビデオカメラを入手し、ソフィの背中に入念に日焼け止めを塗り、タバコは体に悪いと切々と語り、太極拳の護身術を教える。母親との暮らし、学校生活について話をしながら、かけがえのない親密な時間を過ごすふたり。だが、骨折したという腕にはめたギプスを取り外すとき、ままならない状況に陥ったとき、堅実さとはかけ離れた人生を生きるカラムの苦悩が衝動的に時折顔を見せるのだった。現地で顔見知りになった年上のティーンたちが、お酒を飲んで騒いだり、キスをし合ったりする姿に興味津々の思春期にいるソフィは、ちょっとした自立心と反抗心から、些細なことでカラムと口喧嘩をしてしまう。別々に行動したその夜、ホテルへ戻ると、部屋のドアには鍵がかかったままだった―――。

『aftersun/アフターサン』レビュー

© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting
Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

当然のことかもしれないが、子どもと大人(特に人の親)では、見ている光景は同じでも感じていることは全く違う。ソフィが父親カラムと同じ歳になったことで、改めて向き合う、当時の父の姿、そして自分の姿。

子どもの頃の記憶もあり、同時に人の親ともなったソフィの視点だからこそ、両方の気持ちが理解できて、それが切なかったのもする。

今作は決して多くを語るような作品ではない。淡々とビデオの映像が流れ、そこに映し出された父と娘の何気ない日常、バカンスをただ見ているだけに感じるかもしれない。

しかし、一緒にいられる時間に限りがあるカラムの、娘をずっと近くで見守ってあげられないから伝えられることは伝えたいという不安や焦りが、反動的な言葉となって表れてしまうことなど、何気ない映像の中にも多くのドラマが敷き詰められているのだ。

あの時の父の気持ちを考えると、当時に戻りたいとも思ってしまうソフィの気持ちの揺らぎが”今”のソフィの姿を映して描かれるのではなく、当時のビデオの自分を見ている視点、ソフィの眼差しを通して見てくるというのも上手い演出だ。

今作が長編初監督作品となるシャーロット・ウェルズ。映画的なアレンジはあるものの、自身の父との関係性や経験を反映させた自伝的な側面もあるのだが、今作で描かれているのは、大人になっているなら、誰にでも少なからず共通する部分があるはずだ。

今作を観て、自分自身のことを思い出さずにいられる人の方が少ないのではないだろうか……。

© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting
Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

点数 85

© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting
Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

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