作品情報
斬新なオリジナリティあふれる脚本を卓越した語り口で映像化し、先読み不能のスリルとサプライズを創出したジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』と『アス』。これらを世に送り出したプロデューサー、ショーン・マッキトリックが、観客の好奇心をかき立て、想像を絶する“真実”を突き付ける新たな衝撃作を世に放つ。
主演は、『ハリエット』『ドリーム』で絶賛を博した、グラミー賞候補の常連シンガーでもあるジャネール・モネイ。メガホンをとったのは、本作で長編映画デビュー作を果たす新進気鋭のジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツの二人からなる監督ユニット。 パラドックスな迷宮のごとき映像世界の果てに、あらゆる思考が吹っ飛ぶ衝撃の“真実”とは―⁉ “
先取り版とは?
私、映画評論家バフィーがマスコミ試写で、いち早く観て評論する先取り版です。通常回では、公開日もしくは前後に更新していますが、毎週10本以上の新作を観ていて、量が多く大渋滞状態ということもあって、先取りもしていきます。
ダメな作品はダメと言いますが、基本的にネタバレを垂れ流して、映画自体を観なくてもいいような評論はしません。
『アンテベラム』レビュー
タイムスリップして過去に戻りたいと言う人もいるかもしれないが、アフリカ系アメリカ人においては少し違ってくる。
アメリカ映画において、タイムスリップ映画といえば、主役は白人が相場となってくる。それは黒人を主人公にしてしまうと、エンターテイメントとして消費できない人種問題が関わってきてしまうからだ。
マーティン・ローレンス主演のコメディ映画『ブラック・ナイト』の場合は、14世紀のヨーロッパにタイムスリップするという設定。人種差別という点では、あやふやに描かれていた部分もあったが、比較的近年のアメリカとなれば話は別。
『ブラック・ナイト』のようにぶっ飛んだ設定だったり、30年ぐらいのスパンであれば、良くも悪くもあまり変わってないかもしれないが、50年以上前となってくると、「公民権運動」「奴隷制度」などの問題が色濃く反映されてきてしまい、事情がかなり変わってくる。
今作で描かれるのは、対照的な2人の黒人女性の物語。
現代の人種問題について研究する社会学者ヴェロニカと150年前の南北戦争前の南部奴隷農場に囚われているエデン。
どちらも歌手であり、映画『ハリエット』においても南北戦争時代を生きた女性を演じたジャネール・モネイが1人2役を演じ、この2人のキャラクターの意識がリンクする部分が今作の見所である。
そこには、ある事実やギミックが隠されているのだが、「白人至上主義者」というのは、現代においても表に出さないだけで、心に潜む潜在的な概念として根付いてしまっている者もいれば、保守的な場所では、差別的態度をあからさまに表に出す者もいる。
「奴隷制度」が当たり前とされていた頃は、それが堂々と行われていた時代。白人の中にも「支配欲」「所有欲」といったものを黒人奴隷に対して見出していたこともあり、差別を行っていた白人の概念を狂わせてしまったことを思えば、「時代」が作り出してしまったものであり、その潜在的概念が自然に受け継がれてしまった現代人もいることを、対照的な時代に生きる黒人女性の視点から描くことに今作の意義があるのだ。
BLMが騒がれる昨今、映画やドラマとしても様々なアプローチがされてきた。
プロデューサーのショーン・マッキトリックは『ゲット・アウト』も手掛けただけに、今回も共通するテーマも感じる部分があるのだが、人種差別問題を誇張されたホラーやサスペンスに置き換えることで、より問題点が浮き彫りになる。
描かれているテーマとしては、決してエンタメ映画として軽く観るジャンルではないが、ストレートに人種問題映画としてしまうと、社会問題色が強調され、敷居が高くなってしまう。
『クィーン&スリム』やアカデミーを受賞した『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』であっても、日本では劇場公開されない。日本がそういった人種問題が身近ではないこともあるのだろうが、これは他国でも同じ。
幅広い層に、改めて人種問題について考えてもらうには、こういったハイブリッドな作品にする必要があるということだ。
結末を知ったうえで、もう一度観ると、さらにこの作品の深さを感じることができるため、2度鑑賞することをおすすめしたい。
CREDIT
出演:ジャネール・モネイ、エリック・ラング、ジェナ・マローン、ジャック・ヒューストン、カーシー・クレモンズ、ガボレイ・シディベ
脚本・監督:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
原題:ANTEBELLUM/2020 年/アメリカ/英語/106 分/カラー/スコープ/5.1ch/日本語字幕:大西公子
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
2021年 11月5日(金) TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
点数 84
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