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この映画語らせて!ズバッと評論!!『シング・ミー・フォー、ライル』ライルの視点を通して家族再生を描いたミュージカル!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『シング・ミー・フォー、ライル』ライルの視点を通して家族再生を描いたミュージカル!!

作品情報

ニューヨーク。ショーマンのヘクターは古びたペットショップで、魅惑の歌声を耳にする。歌っていたのはなんと、一匹のワニだった。ヘクターはそのワニのライルを相棒にしようとするが、ライルのステージ恐怖症が判明し、ショーは大失敗。ヘクターは去り、取り残されたライルはたった一匹、アパートの屋根裏に隠れ住むのだった。ヘクターが残していった音楽プレーヤーを握りしめて…。長い月日が経ったある日、ひとりの少年と家族がライルの潜む家に越してくる。その少年ジョシュもまた、ライルと同じく心に深い孤独を抱えていた。ジョシュを前に再びゆっくりと歌い始めるライル。やがてふたりは、歌を通して心通じ合わせていく……。

『シング・ミー・フォー、ライル』レビュー

児童向け文学作家、バーナード・ウェーバーの代表作「ワニのライル」シリーズが初映像化。

ストーリー自体は『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』みたいに、孤独感を抱える子どもに秘密の友達ができて、その友達を通して問題を解決していくという、かなりよくあるプロットであるし、そもそもが児童文学なのだから、そこは仕方ないというもの。

だから基本的なストーリー自体に面白さはそれほどないのだが、その中に、様々なギミックとして映画的な魅力が詰まった作品といえる。

まず何といっても、ライルの声はショーン・メンデス。ワニという怖い見た目の中にある優しい心というのを表現するために、甘い歌声というギャップであり、それに説得力を持たせる演出として申し分ないキャスティング。というか、半分以上がショーン・メンデスの歌声を聴く作品でもある。

決して吹替えの大泉洋が悪いというわけではないが、ショーンと大泉では比較できるはずもなく、もともと吹替え版は破綻している状態。ドリームワークスのアニメ映画にも同じことが言えるのだが、こういった歌声や俳優の個性を活かしたキャラクター構築をしてある作品に、違う俳優や声優を当て込むことそが邪道なのだ。

意外な発見としては、コンスタンス・ウーの歌唱シーンがあることだ。コンスタンスが歌うシーンというのは、今までの出演作の中で無かっただけに、貴重といえるし、決して悪くない。1シーンしかないだけに少し不満も残るものの、実はそこも良いところである。

今作はミュージカルといっても、無理に歌唱シーンが入っておらず、あくまでライルの感情表現として歌が使用されている。ハビエル・バルデムもライルに感情を伝えたり、教えたりする際に歌を用いるなど、かなり自然なかたちで歌唱シーンが挿入されているのだ。

それでいて、ライルは歌以外には、言葉を喋ることができない。この設定がさらに説得力をもたせている。

家族構成がやや複雑で、それぞれのキャラクターも何かしら問題を抱えている。例えばコンスタンス演じる も家族の食事に対して成分などに敏感になっいて、レシピ本を出版したことによる責任や世間的な視線、子どもの喘息に対する過剰なほどの配慮など、自由に料理を楽しんでいた頃とは環境が違っていて、そこに葛藤が生じている。

それを明確に説明するわけではなく、ライルという第三者の立場から理解できる構造になっていて、それが実は観客の視点とも一致する。だからこそ、ライルの目線から、何が正しくてどうあるべきなのかということを客観的に見ることができるようになっているのだ。

家族構成もそうなのだが、異なる存在を受け入れる時代ということが全体的なテーマとなっていて、その点は王道というか、単純に言えば偏見は差別はだめだというメッセージでもあるし、『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』とも共通するような、動物と人間の間にもそれは成立するという現代的かつダイバージェントな作品となっている。

点数 85

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