作品情報
中年の刑事・深間は、いったん激怒すると見境なく暴力を振るってしまうという悪癖があった。かつてはその強引な手法により街から暴力団を一掃した功労者と讃えられた深間だったが、度重なる不祥事に加え、大立ち回りで死者まで出してしまったことの責任を問われ、治療のため海外の医療機関へと送られることになる。数年後、治療半ばにして日本に呼び戻された深間は、見知った街の雰囲気が一変してしまったことに気づく。行きつけだった猥雑な店はなくなり、親しい飲み仲間や、面倒をみていた不良たちの姿もない。さらに、町内会のメンバーで結成された自警団が高圧的な「パトロール」を繰り返しているのだ。一体、この街に何が起きているのか? 「安全・安心なまち」の裏に隠された真実に気づいたとき、深間の中に久しく忘れていた怒りの炎がゆらめき始める……。
『激怒』レビュー
『冷たい熱帯魚』の共同脚本も手掛けた、アートディレクター、映画評論家の高橋ヨシキの長編監督デビュー作品。
アングラ臭漂う作品ではあるが、それもまた逆輸入日本映画のような雰囲気で、スパイスとして良い方向に機能している。
目的のためならルール無用の暴力で事件を解決する中年刑事が一度、暴力という概念から離され、精神的治療によって戻った先にあったのは、暴力によって支配されている世界だった。
ディストピアもののように、世界観は誇張はされているが、現代社会の裏側をそのまま捉えたかのように感じられる。
事件が起こらないように暴力で抑え込けむ、反乱分子は問答無用でねじ伏せ、場合によっては抹殺する。正義の名のもとに暴力が蔓延した世界に、暴力から離れた男が立たされたとき、どうなってしまうのか……。
今作は「暴力」とは、そもそも何なのか、そんなことを改めて考えさせられる、実験的であり、哲学的なテーマを扱っているのだ。
暴力から離れた男が暴力を必要に迫られる様子はサム・ベキンバーの『わらの犬』や最近であれば『侵入する男』を連想させる。
それに加え、目には見えないし、映像として映し出されるわけでもないが、怒りのリミットゲージがあるかのように、怒りが蓄積されて、爆発する様子が画面を通して伝わってくるのは見事な演出だ。
点数 78
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