作品情報
不幸なときだけ幸せを感じる男の物語。ティーンエイジャーの一人息子と、小綺麗な家に住み、健康で、礼儀正しく、概ね身だしなみは良い、一見何不自由ない弁護士の男性。しかし彼の妻は不慮の事故により昏睡状態に陥っている。彼の日々は妻を想ってベッドの隅で咽び泣き、取り乱すことから始まる。境遇を知り、毎朝ケーキを差し入れる隣人、割引をするクリーニング屋、気持ちに寄り添う秘書など同情心から親切になる周囲の人々。この出来事がもたらした悲しみはいつしか心の支えとなり、次第に依存してゆく。そんなある日、奇跡的に妻が目を覚まし、悲しみに暮れる日々に変化が訪れ……。園を失った男はやがて自分自身を見失い、暴走する。
『PITY/ある不幸な男』レビュー
変態監督ヨルゴス・ランティモスのブレーンであるエフティミス・フィリップとギリシャの監督バビス・マクリディスによるタッグ作ということで、テイストはやはり似ていて、不条理の中で浮き彫りにされる人間性を描いている。
日々の生活や環境への不満が、人を暴挙に走らせるといった犯罪心理構造を描いた作品は『フォーリング・ダウン』『マッドボンバー』、最近ではラッセル・クロウの『アオラレ』といった作品もあったが、今作は大きく分類すると、そういったジャンルの映画に当てはまるかもしれない。しかし、今作は動機がまた少し異質なものとなっている…….しかし、共感できなくはない!!
妻が昏睡状態になったことで、今まで関わりのなかった近所の人々や同僚から、なぐさめの声をかけられ、心配してくれる。これは身近によくあることで、例えば葬儀の際に、普段はそこまで仲良くない親戚が肥えをかけ、心配してくれるといった光景は珍しくない。そこで、その状況が心地よいと感じる場合もあるはずだ。
しかし、モラルや世間体を気にしたり、自分自身もそんなことを考えてしまうことがタブーだと感じ、表に出すことはない。今作は、そんな人間がもっている「同情心への欲求」を扱っているという点で、人間の醜い感情を誇張を交えながらとことん描いていくのだ。
ところが、昏睡状態だった妻が目を覚ましたことで、その同情心は一気に妻に向き、主人公は妻を失ったと思ったときの空白感とは全く異なる、妻が目覚めたことによる、妙な空白感を感じはじめ、事態は思わぬ方向に向かっていくのだが、その思わぬ方向というのが、サイコパス寄りになってしまっていて、中盤まで良いペースできていたというのに、クライマックスになると、B級ホラーになってしまうのが残念でならない。
これは制作側の狙いかもしれないが、人間ドラマとしては、かなり良くできていただけに、もう少しのところで台無しにしてしまった感じがしてならない。これが彼らの作家性と言われれば、否定はできないが……
点数 79
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