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この映画語らせて!ズバッと評論!!『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』園子温ハリウッドデビュー!なのにヘンテコ&カオスなジャパニーズ!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』園子温ハリウッドデビュー!なのにヘンテコ&カオスなジャパニーズ!!

作品情報

 悪名高き銀行強盗のヒーロー(ニコラス・ケイジ)は、ある日、相棒のサイコ(ニック・カサヴェテス)と共にサムライタウンにある銀行を襲撃するが、そこに偶然、居合わせた少年をサイコが撃ったことがきっかけで、襲撃は失敗に終わりヒーローは捕まり、投獄されてしまう。そこから月日が流れたある日、ヒーローが連れてこられたのは、サムライタウンを牛耳る悪徳ガバナー(ビル・モーズリー)であった。ガバナーのお気に入りのバーニス(ソフィア・ブテラ)が行方不明になったことから、その捜索にヒーローを向かわせようとする。逃亡やバーニスに危害を加えないように、爆弾の仕込まれた特殊なスーツを着せられたヒーローだが、時間内にバーニスを連れ戻さない場合でも、爆発してしまう。はたしてヒーローはバーニスを無事に連れ戻すことができるのだろうか……。

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』レビュー

2021年2月、ニコラス・ケイジと日本の無名女優・芝田璃子の電撃結婚が世間を騒がせた。芝田璃子という女優は、アメリカ映画に出演しているわけでもなく、日本においても『決算!忠臣蔵』(2019)などにエキストラとして出演する程度。どうして2人は出合うことができたのだろうか……。

 そのきっかけとなったのが2021年10月8日から日本でも全国劇場公開される『冷たい熱帯魚』(2011)『地獄でなぜ悪い』(2013)などで知られる園子温のハリウッドデビュー作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』である。

 今作は滋賀県でも撮影が行われており、その際にエキストラとして出演していた芝田に一目惚れしたことでスピード結婚に至ったのだが、その年の差31歳というのも驚きである。ちなみにニコラスが親日家であるのは有名な話で、前にもエリカ・コイケと結婚していた。

 ハリウッド俳優と無名女優が結婚するというのは、夢のある話に聞こえるかもしれないが……実はそうでもない事情がある。それはニコラスが経済的に非常に厳しい状況におかれている俳優だからである。そういった事情もふまえて今作を紹介しよう。

日本人監督なのにヘンテコ&カオスジャパン全開な訳

園子温のハリウッドデビュー作とされている今作ではあるが、ハリウッドといっても大手のスタジオが製作したわけではない。今作を手掛けたイレブンアーツ、XYZフィルムズは、日本のマイナー映画やアニメなどを配給しているクセの強い製作会社である。今作も一部劇場公開されるようだが、基本的には配信作品になるようで、一般的なシネコンでは上映されない、いわゆるミニシアター系作品である。

海外において日本映画といえば、もちろん黒澤明や宮崎駿といった印象が強いだろうが、次に名を連ねるのは、日本が報じている「世界の北野」といわれる北野武や、アカデミー賞にもノミネートされた『万引き家族』(2016)の是枝裕和よりも、三池崇史や井口昇、そして今作の園子温といったキワモノ映画監督だ。

これには日本映画の流通形態が大きく影響している。そもそも日本映画というのは、アメリカではあまり劇場公開されない。ジブリ作品であっても、一部は劇場未公開であるし、当然ながらジャニーズが出演するような、日本のテレビ局が製作する作品は、ほとんど公開されていない。

映画祭などに行くようなセレブや外国映画通を自称するような評論家と、一般のアメリカ人の間には大きな壁があって、一般的にはそういった作品はあまりウケないことから、賞をとった作品でも短期間上映か、ソフトもしくは配信スルーになることが多いのが現状である。

今作の製作会社や、『片腕マシンガール』『東京残酷警察』(2008)などを配給した「メディア・ブラスターズ」が2000年代から「座頭市」や「ゴジラ」シリーズに混ぜて日本の低予算エロ・グロ映画や、18禁アニメなどをリリースしていた。そのため日本映画というと、文芸映画というより、アングラ作品として手を出すジャンルでもあるのだ。

だからこそ日本映画好きと自称する海外映画人ほど、かなり屈折した日本イメージを全開に描く傾向が強く、その象徴的な作品が今作と言っても過言ではない。

監督は園子温であっても、脚本には関わっていない。主にドラマやテレビ映画などに出演するアーロン・ヘンドリーとレザ・シクソ・サファイの俳優コンビが脚本を務めることから、この2人のイメージした日本像が大きく反映されている。

『マッドマックス』(1979)、あるいは『ターボキッド』(2015)(自転車に乗るシーンや腕の装置などが似ている)のような核戦争後の世界がベースにあり、原爆被害国である日本を舞台に、長崎の原爆ドームや福島原発を模した建物、キノコ雲なども登場するといった、かなり攻めた内容で、いかにも外国人の間違った日本が詰まったような作品である。

日本で核戦争後の世界を描いた作品としては、漫画「北斗の拳」や手塚治虫の「来るべき人類」(1956)、感覚的に核の恐怖を描いたものとしては『ゴジラ』(1954)や封印映画『ノストラダムスの大予言』(1974)といったものもあるが、ここまで直接的にファンタジー要素として取り込むことは、現代の日本人監督ではできないし、やる勇気がないと思う。

ここまで負の要素で散らかった作品を力業でまとめ上げたという点では、園子温を逆に評価できる。

外国人監督がこれを映画化していたらと考えると恐ろしい……。

今作によって、またカオスな日本イメージが世界に拡散されてしまうだろうが、知っておいてもらいたいのは、カオスに思える日本を信じている人は意外と多く、先日公開された『シャン・チー/テン・リングスの伝説』もアメリカや日本などの少し離れた位置から観ている分には楽しいが、中国人が観たら同じような印象を受けるということだ。

これも表現のひとつと思って、寛大な心で観ていただきたい!!

ニコラス・ケイジあるところ、カルト映画あり!!

ニコラス・ケイジといえば、『ゴッドファーザー』(1972)のフランシス・フォード・コッポラやソフィア・コッポラの親戚であり、1990~2000年代にかけて話題作、ヒット作に出演してきたザ・ハリウッドスターである。しかしその一方で、珍しいペットや車、建物を衝動的に購入する浪費家。

また、コミックコレクターとしても知られており、「ケイジ」という名はマーベルの「パワーマン」のルーク・ケイジからとったもの。それほどコミックに対しては執着があり、どうしてもアメコミ映画に出たいとアプローチを続けていた。90年代にはティム・バートンが監督を務める『スーパーマン リブス』の主役に抜擢されたが、企画自体が見送られた。

2007年、念願のアメコミ映画『ゴーストライダー』に出演できたのは良かったが、その後頃から浪費による借金や債務不履行で銀行から訴えられるなどに加え、離婚による慰謝料の圧迫で税金も滞納状態。資金難に陥った末、小規模の映画にも出演するようになっていった。

さらに分岐点となったのは、安定のディズニー映画『ナトョナルトレジャー3』の企画が上手く進まなかったことだ。『ナショナル・トレジャー3』に出演していたからといって、財政難を打破できたかは不明だが、気づくと質より量を求める俳優となってしまい、別の意味でよく観るハリウッドスターになってしまった。2022年には、自虐ネタ映画『The Unbearable Weight of Massive Talent』に本人役で主演を務めることも話題となっている。

自虐ネタ映画といえば過去にもジャン=クロード・ヴァン・ダムの『その男ヴァン・ダム』(2008)や『ウディ・ハレルソン ロスト・イン・ロンドン』(2017)など、行き詰った俳優の最終手段にも思えるが、ニコラスの場合は、今の何でも出演するスタンスによって、「ニコラスあるところカルト映画あり」と言わんばかりのオーラを放っているだけに、今回もママチャリに乗ったり、キ〇玉が破裂したりと、見所満載。フッワークの軽さに変な愛着がわいている人も多いはず。

今後もニコラス・ケイジという俳優を暖かい目で見守っていきたいものだ……。

監督:園子温

脚本:アロン・ヘンドリー

レザ・シクソ・サファイ

音楽:ジョセフ・トラパニーズ

衣装:松本智恵子

美術:磯見俊裕

VFXスーパーバイザー:

ジョージ・A・ルーカス

編集:テイラー・レヴィ

撮影:谷川創平

製作総指揮:ナタリー・ペロッタ

ニック・スパイサー

アラム・ターツァキアン

定井勇二 横浜豊行

製作:マイケル・メンデルスゾーン

レザ・シクソ・サファイ

ローラ・リスター コ・モリ

ネイト・ボロティン

アメリカ/2021/カラー/105分

配給:ビターズ・エンド

提供: POTGJPパートナーズ(ビターズ・エンド、日本ケーブルテレビジョン、常盤不動産、松田眞里公認会計士事務所、クオラス)

点数 75

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