THE映画紹介とは?
THE映画紹介とは…劇場公開中には観れなかったもの、公開中に観たんだけれども…レビューする前にリリースされてしまったもの、単純に旧作と言われるものを独自の偏見と趣味嗜好強めに紹介するもの。
アメリカ映画、インド映画、ドイツ映画、アジア映画、アニメ、ドキュメンタリー….なんでもあり!!
今回紹介するのは『デンジャラス・ビューティー』
作品情報
男勝りの能力を武器に、しゃれっ気無縁の世界で仕事一筋に突き進むFBI捜査官グレイシー。仕事で失敗し、現場から遠ざけられガックリきている最中、手配中の連続爆弾魔からミスコンを襲うと爆破予告が。なんとかコンテストに潜り込むべく、エリック率いる特別捜査チームは、現場復帰のチャンスをかけるグレイシーに白羽の矢を立てる。ミスコンなんてとバカにしていただけに、最初は断固拒否するものの、しぶしぶ任務を受けることに。そして、グレイシーの女磨きのレッスンが始まる……。
『デンジャラス・ビューティー』基本情報
2001年製作/110分/アメリカ
原題:Miss Congeniality
監督: ドナルド・ペトリ
出演 : サンドラ・ブロック、マイケル・ケイン、ウィリアム・シャトナー、キャンディス・バーゲン、ベンジャミン・ブラッド ほか
『デンジャラス・ビューティー』徹底解明
『リッチー・リッチ』『ミスティック・ピザ』といったコメディ映画を得意とする監督ドナルド・ペトリがアクション要素を入れ、アクション・コメディかつシンデレラ・ストーリーという三層構造のハイブリッド作品に仕上げたのが2001年の映画『デンジャラス・ビューティー』です。
今ではサンドラ・ブロック主演映画の代表的作品となった『デンジャラス・ビューティー』がいかに計算され、巧妙に作られた傑作映画であるかを映画の舞台裏や込められた想いを紐解いていきます。
絶妙なバランスで形成されたアクション・コメディ
監督のドナド・ペトリと脚本のマーク・ローレンスは、アクション要素のある映画を制作した経験があまりありませんでした。そのため、様々なシーンを撮影してはカットするということを繰り返して、バランスのとれた作品に試行錯誤しながら作っていったのです。
シリアス過ぎるシーンはカット
冒頭では、主人公グレイシー・ハートの少女時代のエピソードが映し出されます。当初はその他に、グレイシーが学校で問題を起こし、母親が学校に呼び出されるというエピソードやFBI捜査官であった母親の殉職を描くことでグレイシーの人生の目標が母親であることを示すというシーンが撮影されました。
しかし、それではシリアス過ぎてしまい、コメディとしてのトーンを落としてしまうということで、最終的にカットされました。
実はFBIの廊下のシーンでもグレイシーの母親の写真が飾られていて、写真の前で泣くシーンも撮影されましたが、こちらもカットされました。
結果的に母親のエピソードは劇中で全く語られていません。グレイシーには、バックストーリーがなくても真実味があると判断したからでした。
アクション映画でもあることをしっかりと冒頭で示す
シリアスになり過ぎてはいけませんでしたが、アクション要素を強調するために冒頭のシーンでは、ロシア人の裏取引現場での緊張感漂うアクション・シーンを入れました。このシーンによって、この映画はアクション映画でもあることを印象付けたのです。
それと同時にピーナッツを喉につまらせたロシア人を助けようとすることで、グレイシーは思い立ったら、周りの意見よりも自分を信じて行動する性格だということを見せているのです。
サンドラ・ブロック徹底汚し計画
サンドラ・ブロックはゴージャスな美人女優です。そのため、そのまま男勝りでブスな役を演じさせるのは無理があったのです。そこでサンドラ・ブロックを徹底的にブスにするという計画が実行されました。
監督のドナルド・ペトリは、この映画で一番苦労した点は、サンドラ・ブロックをいかにブスに見せるかだったとコメントしていました。
外見で見せるブス度
メイク担当のパメラ・ウェストモアによって、ゲジゲジの一本眉毛に仕上げ、衣装も黒やグレーといった、地味な色のものを選びました。髪の毛は傷みがある、ぼさぼさヘアーにしました。
歯の隙間には食べかすを挟むなど、とにかく下品で汚くしたのです。
撮影で見せるブス度
更に撮影のラゴス・コヴァックスによってダサい姿は広角レンズで寄って、照明も暗くして撮ることで撮影でもブスに見える工夫がされたのです。逆に美人になったときのシーンでは、望遠レンズで色味も強調することでメリハリをつけました。
シーンで見せるブス度
普段の生活シーンでも、徹底的にブスであることを見せたのです。例えばグレイシーの散らかった部屋で躓いて何度もコケるシーン、食事をしている時に書類やシャツにケチャップを付けてしまい、そのままのシャツで翌日出勤するというシーンは象徴的です。
しぐさで見せるブス度
ステーキを食べて、歯の隙間に肉が挟まって人前で堂々と取ろうとする行儀の悪さや恐竜のような大股歩き、ブタのような笑い方で下品な部分も演出しました。
しかし、このブタのような笑い方は、監督とサンドラが食事をした際に、プライベートでサンドラがブタみたいに笑ったことから、すかさず「それを劇中でもやって!」と言ったことがきっかけでした。
つまり、あのブタみたいな笑い方はサンドラが普段プライベートでしている笑い方だったのです。
アドリブで作り上げたシーン
脚本のマーク・ローレンスは、映画が完成して観た際に「自分の描いた物語だが、楽しめる」と答えています。
アドリブで脚本を肉付け
今作は冒頭のグレイシーの少女自体のシーンからアドリブによるセリフやアクションが満載です。シーンによっては、ざっくりとしたことしか脚本に書かれておらず、俳優たちのアドリブでシーンを作り上げていると言っても過言ではありません。
グレイシーがサイレンを鳴らし、何等かの捜査をしているのかと思えば実はスターバックスでコーヒーを買うというシーンがあります。このシーンでの注文は全てアドリブです。サンドラは自分の妹が好きなメニューを適当に言ったそうです。
コメディは”伏線”と”オチ”
監督であるドナド・ペトリはインタビューで「コメディは”伏線”と”オチ”である」と答えています。
グレイシーの生活習慣を表す伏線とオチ
今作は、小道具やセリフによって複数の伏線が巧妙に張り巡らされています。
例えばグレイシーの食事シーンでは、食べているものでグレイシーはジャンクフードとビールが好きであることが解る様にされているのです。
後半でミスコン出場者から、情報を聞き出すためにピザとビールを持ち込むことで、プレッシャーとストレスで疲れ切っていた出場者たちの心を一気に鷲掴みしたのです。
特技と衣装の伏線とオチ
ヴィクターと初めて会うシーンでは、ヴィクターの話が退屈になってきたグレイシーがグラスを指でなぞり、音を出すシーンがあります。そして、ミスコンの予選会場に着いたときのシーンで映るチラシ配りをしている女性の衣装。
その後、グレイシーはグラスで演奏するが特技だったということと、急遽衣装を調達した先が、チラシを配っていた女性からであったことが解るという仕組みなのです。
これらは、ほんの一例です。その他にも多くの伏線が散りばめられている作品なのです。
ミスコンのシーンや舞台は全てがリアル
コメディ映画だからといって、妥協は一切していません。ミスコンファンから苦情が来ない様に、徹底的にリアルを追求しているのです。
本物のミスコン振付師が監修
振付師役として出演もしていて、劇中のダンスやパフォーマンスも手掛けている振付師のスコット・グロスマンは、実際に数々のミスコンの振付けを担当していたこともある本物のミスコン関係者でもあったのです。そのため、映画の監修も任されることになりました。
ミスコンのシーンは、本当のミスコン関係者によって、パフォーマンスや会場の雰囲気、全てがリアルに再現されているのです。
予選会場は実際に観光地で撮影
ミスコンの会場になるのは、テキサスのサンアントニオ。出場者が予選で特技を披露するシーンでは、実際に観光地であるアラモの砦の前にステージを作りました。周りに映っている人達や観覧者達は、ほとんどがたまたまそこに居た本物の観光客だったのです。
ちなみに1960年のジョン・ウェイン主演映画『アラモ』ときは、実際にアラモの砦では撮影しておらず、セットを使って撮影しています。
元警察官の俳優をキャスティング
FBI捜査官役で出演しているケン・トーマスとジョン・ディレスタは、元警察官という異色の経歴の俳優です。
ケン・トーマスは、ダニエル・ラドクリフ主演で2020年2月に全米公開予定の映画『Guns Akimbo』でも警官役を演じています。
ジョン・トーマスは、シャロン・ストーン主演映画『グロリア』やヒュー・グラント主演映画『恋するための3つのルール』など多くの作品で警察役を演じています。
2人はその他の映画やドラマでも警官の役を演じています。元警官であることを活かした演技が評価されているのです。
フェミニストと反フェミニストの最終決戦
劇中でシチズンという爆弾魔が世間を騒がせていることが描かれています。それを利用してシチズンの仕業に見せかけて、ミスコンをめちゃくちゃにするというのが犯人の狙いでした。
犯人はミスコンを愛していたが故に、自分が関わらない、若いスタッフによって再建されるミスコンなど冒涜であり、今回で終わってしまえばいいと考えたのです。犯人は反フェミニストでした。
非情に屈折した反フェミニズムの考え方
男勝りのグレイシーは、以前はミスコンに出場するような女性は嫌いでした。それはあらゆるシーンやセリフから伝わってきます。グレイシーは、セリフの中でも自分はフェミニストであると語っています。
普段の捜査の中でも、男達と同じように振舞ってはいるが、実は輪の中に入り切れておらず、女性であることは自分の価値を下げているようなものと、性別に対してのコンプレックスがあったのです。
ミスコンに出場する様な女性は、女性蔑視の古い考えの持ち主であり、美しさとプロポーションを武器にしているだけの、頭の悪い中身のない人ばかりだと思っていたからです。
しかし、行動を共にすることでグレイシーは彼女たちが様々な問題を抱えている人間であることを知っていくのです。
グレイシーが準ミスになれた理由
グレイシーもミスコンに出場したことで女性であることの喜びや自信を得て、彼女は良い方向に変わっていったのです。
そんな中でグレイシーがグラス演奏のために用意していた水を出場者が飲んでしまっていたというアクシンデントが起きてしまいます。何か他にできることはないかと思ったとき、男勝りであることも自分の魅力として変換したグレイシーは、とっさに護身術を披露することになります。
オペラやダンスなど、いかにもミスコンらしい特技を披露する中で護身術というのは、異質ではありましたが、女性も強くあるべきという姿が共感を呼んだことで準ミスという結果を得たのです。
見事ミスアメリカとなったシェリルは、グレイシーの元で学んだ教訓を活かすことで精神的に強くなることができました。その自信と強さと美しさによって、優勝を勝ち取ったのです。
お堅い女性ばかりが受賞すると思われていたミスコンがフェミニズムを受け入れた瞬間でもあるのです。これは犯人が信じていた反フェミニズムが覆されてしまった瞬間でもあり、やけになった犯人は、とにかく爆破させてしまおうと暴走します。
王冠の爆弾はメタファー
爆弾は優勝者に贈られる王冠に仕掛けられていました。王冠を爆破することは、「もうミスアメリカは生まれない」というメタファーであったのです。
そのために優勝者が王冠を付けた瞬間に爆発させなければならなかったのです。
ミスコンをめちゃくちゃにしたいだけなら、グレイシーをそのまま出場させればよかったのですが、質を落としてはいけないという考え方から、マイケル・ケイン演じる美容コンサルタントのヴィクターに依頼して美人に変身させてしまったことで、自分の首を絞めることになってしまったのです。
『デンジャラス・ビューティー』が総合的に描きたかったことは、フェミニズムや反フェミニズムも関係ないということ。そんな区別すること自体が時代遅れであり、自分のことを信じて、輝いている女性は美しいということです。
正に今までの古い考えなど必要ないと、21世紀の華々しいスタートを飾った映画だったのです。
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