作品情報
『セレブレーション』『光のほうへ』で知られるデンマークの名匠トマス・ビンターベアが、『007 カジノ・ロワイヤル』『アフター・ウェディング』のマッツ・ミケルセンを主演に迎えたヒューマンドラマ。変質者の烙印を押された男が、自らの尊厳を守り抜くため苦闘する姿を描き、2012年・第65回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞ほか3冠に輝いた。親友テオの娘クララの作り話がもとで変質者の烙印を押されたルーカスは、身の潔白を証明しようとするが誰も耳を傾けてくれず、仕事も親友もすべてを失ってしまう。周囲から向けられる侮蔑や憎悪の眼差しが日に日に増していくなか、それでもルーカスは無実を訴え続けるが……。
『偽りなき者』基本情報
2012年製作/115分/R15+/デンマーク
原題:Jagten
監督: トマス・ヴィンターベア 『ディア・ウェンディ』『セレブレーション』
脚本: トマス・ヴィンターベア 、トビアス・リンホルム『ある戦争』『シージャック』
出演:マッツ・ミケルセン『ドクター・ストレンジ』『プッシャー』、トマス・ボー・ラーセン『ディア・ウェンディ』『セレブレーション』、アレクサンドラ・ラパポートなど
日常に潜む「不信感」という恐怖を描いた、ある意味ホラー作品

日本でも2007年に周防正行監督作品『それでもボクはやってない』で痴漢の冤罪と戦う様子を描かれていたが、今作は子供の小さな嘘によって人生が狂わされる恐怖を描いている。
子どもや女性の言い分の方がどうしても男性に比べると、信じられてしまうという世の中の不条理さや固定概念がもたらす日常における、救いがたい恐怖を描いていて、終始落ち着くこちができない。
はじまりは親友テオの娘クララの小さな嘘...「ルーカスにいたずらをされた」と言ったことで回りの大人が拡大解釈。性的なものであったと断定=変態という烙印を押されてしまったルーカス。

職場からは追い出され、周りの人は変人扱いで嫌がらせを受け、「おもえのことは何でもわかる」と言っていた親友も自分の娘の言ったことを信じないわけにもいれない、更に無実を信じてくれている息子にまで嫌がらせの手がおよび...と絵に描いた様な負の連鎖。
どこで何が間違ってしまったんだろう... 息子との絆、親友との和解と物語の中で「救い」となる部分はあるものの、無実だとわかっても、信じている誰かがいてくれたとしても、消せない重い重い「疑惑」「不信感」を抱えながら生きていなかければならないということを痛感させられるラストは心が痛くなる。
監督のトマス・ビンターベアは過去の作品からも見られる様に、物事を極端にシニカルに描くものの、フィクションとして頭が処理しきない不条理の余韻を残す傾向の作品が多く、ラース・フォントリアーが脚本を務めた『ディア・ウェンディ』では、銃を手にしたことで起こる、精神的変化をティーンエイジャーを通して描き最悪な結末に向かうという何とも言えない気持ち悪さを残す。
トマス・ピンターベアの作品は、ハッピーエンドと言える作品は少ないのため、最後には幸せになる作品が好きだという人には、苦手な作品が多いかもしれない。

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