初の映画本『発掘!未公開映画研究所』の出版が待たれる映画評論家・映画ライターのバフィーによる徹底アカデミー賞分析。
かなりギリギリの更新になってしまったが…
まずは監督賞から
■監督賞ノミネート
トマス・ヴィンターベア 『アナザー・ラウンド』
クロエ・ジャオ 『ノマドランド』
デヴィッド・フィンチャー 『Mank/マンク』
エメラルド・フェネル 『プロミシング・ヤング・ウーマン』
リー・アイザック・チョン 『ミナリ』
まずこの並びでは、クロエ・ジャオといったところだろうか。
表向きの理由としては、様々な人種とジェンダーにとらわれない人が安心して活躍できる映画業界であるというメッセージの発信。
人種の壁もあるが、まだまだ蔓延っているのが、映画界は男性社会であるということ。
『ブラック・クリスマス』『ブラック・ビューティー』のソフィア・タカールが度々ネタにしているし、『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』などの映画業界を扱ったドキュメンタリーでも女性の活躍の場がまだまだ少ないという点が挙げられている。
そして、このタイミングでのアジア系へのヘイトクライム。
トランプ前大統領が新型コロナウイルスのことを、チャイナウイルス、武漢ウイルスなどと発言したことが引き金となって、アジア人に対するヘイト運動が過激化している。
アジア系への偏見というのは、今に始まったことではない。
特に映画業界での活躍の場というのは、この数年で劇的に変化したに過ぎない。
日本人含め、アジア人の俳優や映画人がいなかったということではない。
日本人もマコ岩松やジョージ・タケイといったステレオタイプなアジア人脇役としては、かつてから存在おり、日本でも三船敏郎などが奮闘したが、メインキャラクターとしての地位を得るのは簡単ではなかった。
アジア系の中で、メジャー作品で主役を演じたパイオニアは、チョウ・ユンファとされている。
そこからジェット・リーやジャッキー・チェンもアメリカ映画で主役ができる立場となっていった、その後もイ・ビョンホン、ジョン・チョーといったアジア系がメインキャラクターとして登場する場が増えた。
世界でも話題になったアジア人によるハリウッド映画『クレイジー・リッチ!』の成功も後押ししている。
しかし、一方で資金難のハリウッド、映画業界が莫大な製作費を補うためにチャイナマネーに頼る傾向も増えてきていて、特にディズニーは中国とのズブズブ関係がアニメ『サウスパーク』のネタにもされているほどであり、アジアンヘイトとは別の問題もあることは事実。
問題なのは、差別をする側の偏見として、アジア人であれば誰でも対象ということだ。
アメリカ育ちのアジア系アメリカ人だろうが、日本人、韓国人だろうが関係ない。アジア人はアジア人という考え方である。
新型コロナウイルスが実際に中国から始まったものであるという事実はあるという見解もある中で、問題はそこではない。
差別をしている者たちは、政治的な活動としてではなく、周りにつられての同調活動のような単純な思想でしかない。
映画業界の中国支配という部分は、一旦置いておいて、とりあえずはこの異常事態を納めなければならない。
イメージを売りにしているエンタメ業界、特に全世界が注目するアカデミー賞によって、メッセージを発信するべきではないかという意識が働いている。
中国との関係が悪化するという不安もある中で、アジアという点だけに目を向けると『ミナリ』のリー・アイザック・チョンという選択肢もあるし、ジェンダー的な部分として『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェネルというのも該当してくるだろうが、両方が補えるのが正に『ノマドランド』のクロエ・ジャオということだ。
アジア・女性という部分で、ドライで悪い言い方をすると、映画業界はあくまで公平というプロパガンダとしての役割りが強いということ。
そもそもアカデミー会員の対象者を幅広くした理由もそこだからである。
アカデミー賞会員の中でも同僚に多くのアジア人がいて、自分自身も有色人種、ジェンダー問題によって、仕事に壁が生じているとすれば、そこに票が向かうのも自然な流れである。
更に関わってくるのが、前哨戦といわれる映画賞である。なぜ前哨戦と言われているのかには理由がある。
アカデミー賞というのは、身内の賞ということもあり、評価する側が映画業界では働いていながらも、映画業界に精通しているというとそうではない。
そういった右にも左にも向かない、どっちにしていいのかわからない中間層というのが一定数いて、そういった中間層は、前哨戦の結果を参考にするのである。
他のノミネートと比べてもバラつきがあまりない監督賞のクロエ・ジャオというはかなり強い。
今回、社会情勢を考えて、バランスを考えたものになりそうだ。
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