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F〇UK!連発のインドドラマ『フォー・モア・ショット・プリーズ!』から見る、インドの変化する性描写

現在日本のAmazonプライムでも配信中のドラマ『フォー・モア・ショット・プリーズ!』

「アフター6ジャンクション」に初めて出演した際に、インドのステレオタイプなイメージがぶっ飛ぶ作品として紹介したのが今作だが、その時はまだ日本では配信が決定していなかった。

ところが12月になって、シーズン1~3が一挙配信開始になった!!(アトロク効果か???)

配信開始になったのは良かったものの、字幕の不具合や検索できない問題もあったりと不安定な状態が続き、4月頃になってやっと安定して観られるようになったのだ。

音楽を担当しているマイキー・マクレアリーによる、タイトルトラック含め、サウンドトラックの全体が見事にマッチしてるのと、シャーヴィ・ヤダフミダ・サヒといった若手やインディーズのシンガーを多く起用していることも意欲的だ。

シーズン3のホーリー祭のシーンは、変化する価値観の中で伝統文化がどう扱われているかという対比にもなっている象徴的なシーンだが、その中で使用されている「Ding Dang」は、古典と現代音楽のフュージョンとなっている。

全体的なストーリーとしては、ムンバイに住む仕事も年齢も生活環境も違う4人の女性の友情を描いた、まさにインド版「セックス・アンド・ザ・シティ」といったものとなっており、実際にインドでもそう言われているし、明らかに意識していることは伝わってくる。

全体的なノリはカジュアル・ポップに感じられるし、アメリカドラマを意識したような作品と思うかもしれないが、描いていることは「男尊女卑」「結婚はお見合い」「カースト差別」「LGBTQ」といった、未だにインドに対して蔓延る保守的なイメージ、社会問題へのカウンターカルチャーのような作品となっていて、それらの問題に対して、都会のリベラルな女性から見た葛藤や回答が描かれている。

つまり今までも映画やドラマで小出しに描いてきたことが、全て詰まっている作品といえるのだ。

シリーズの監督を務めるのは、全て女性監督であるからこそのリアリティであり、インドに生きてきた女性の本音、変わりゆく概念や価値観といったものが容赦なく描かれている。

都会が舞台となっていることもあって、カースト差別に関しては、そこまで描かれていないようにも思えるが、意識の中にある闇として、反映されている部分はある。

そして何より、キスシーンや性描写があまり描かれてこなかったインド映画・ドラマ界でセックスを通しての恋愛の描き方としては、かなり攻めた作品であることは間違いないのだが、それは配信作品というのも理由として大きいだろう。

例えばシーズン1の中で、女性器のことを大声で叫ぶシーンがあったりするし、頻繁にFUCK!!という言葉が使用されてる。他にもアメリカであっても放送禁止用語が連発されるが、これも配信作品であることと、レーティングを絞っているからこそできることである。

主人公のひとりであるシディ・パテルは、シーズン2からスタンドアップコメディの道に向かうようになるが、その中のギャグもティファニー・ハディッシュかと思うほどの下ネタだ。

インドではそういった描写が禁止というわけではないが、そもそも結婚前の性交渉などが良く思われていない保守的な価値観や宗教上の理由が根底にはある。しかし2010年以降に制作された若者向けの作品は、そんな概念はすで崩壊している。

2014年のアーリヤー・バットアルジュン・カプール主演映画『2 States』は、大衆向けの作品ではあるが、多くのキスシーンと直接的ではないにしても性描写が含まれている。

では、何が一番ネックになっていたかというと、もともとインドにおいての映画に対してのイメージがみんなで盛り上がるお祭りやイベントのようなものとされてきたことから、それに見合った映画作りがされていた。マサラ映画と呼ばれるものが典型的な例だ。

特に娯楽大作に関しては幅広い層に向けて制作されていることもあり、レーティングの問題で避けていた部分もある。

ところがシネコン、配信サービスの普及、デジタル化、そして新型コロナパンデミックの影響なども重なり、映画自体の考え方を映画作家たちが考え直しはじめたことで、テーマを絞る作品が増え、ミュージカルシーンが存在しない作品やただただ暗い重圧な作品なども制作されるようになってきたことで表現の幅は圧倒的に広がった。

東西インド映画、例えばベンガル語やグジャラート語の映画に関しては、もともと映画の市場規模がそれほど大きくないため、予算の都合などもあったりで、南北のような娯楽を主体とした作品よりも作家性を重視した作品が昔から制作されていた。娯楽大作に関しては、やはりエンターテイメント性を重視することもあったり、プロモーションをガンガンしないといけないという理由から、未だにミュージカルシーンが入ったりもするが、全体的には南北もストーリー重視、テーマ性重視のスタイルになりつつある。

そして映画の場合も、ここ数年の間でキスシーンや性描写は普通に入るようになってきた。

ランビール・カプール、シュラッダー・カプール主演の『Tu Jhoothi Main Makkaar』でも頻繁にキスシーンがあるし、社会派作『BHEED』でもベッドシーンがあるなど、レーティング関係なく表現の自由として、そういったシーンが入るようになってきているのだ。

【キャラクター解説】 *一部展開のネタバレあり

■ダミーニ・リズヴィ・ロイ(サヤーニ・グプタ)

起業した会社でジャーナリストとしても活躍していたが、インド政府に関わる告発記事を掲載しようとしたことがきっかけで、解雇されてしまう。自費で本を出版するが、デモ活動によって書店が襲撃され、販売中止に。

産婦人科医で自由恋愛を楽しむアーミル(ミリンド・ソマン)と体だけの関係になるが、一方で行きつけの「トラックバー」のオーナー、ジェー(プラティーク・バッバル)と恋人関係になる。

ジェーとは付いたり離れたりで、その間にアーミルの子どもを妊娠してしまうが、気持ちはジェーの方にある……といった複雑な状況に。

ジャーナリストとしての自信も失いかけ、自分探しの真っ最中。

■ウマン・シン( Bani J )

パンジャブ出身のパーソナルジムトレーナーでバイセクシャル。全身タトゥーのいかつい風貌ではあるが、実は一番情に深く友達想い。

学生時代は同性のピンキーと恋人関係にあったものの、カミングアウトできないまま、ピンキーはウマンの兄と結婚してしまい、家族になってしまったことで、家に戻ることがより辛い状況。

ちなみにピンキー役のアスタ・アローラは、ドラマ女優としても知られているが、『Mimi』や『マスカ ~夢と幸せの味~』などのキャスティングも担当している。

両親も保守的であり、ウマンにお見合いさせて、早く男性と結婚させようとしていたが、ボリウッド女優のサマラ・カプール(リサ・レイ)と恋人関係になり、マスコミの前でカミングアウトしてしまう。

それによって、ウマンはインド国内で同性愛者であることがわかってしまう。つまり両親にも。

シーズン3では故郷に帰るエピソードもある。

■シディ・パテル(マーンヴィ・ガグロー)

グジャラート出身で裕福な家庭に育つ。ふくよかな外見にコンプレックスをもっているがポルノサイトでストリップ動画を投稿しているうちに、自分のコンプレックスが逆に長所であることに気付く。

母スネーハ(シモーン・シン)は保守的でシディを早く結婚させようとしていて、言うことをきかないシディにイラ立っている。

最初は消極的だったシディだが、お見合い相手のミヒル(ラジーブ・シッダールタ)と意気投合したことで結婚を決意するものの、ミヒルの父親がポルノサイトを見ていたことがわかり、ポルノサイトへの投稿が家族や親せき中に知れ渡ってしまったことがきっかけで、結婚話は破綻。

ところがシディがそういった行動をとったのが、自分がコンプレックスに対して圧力をかけていたことに原因があると感じ、シディの心情に寄り添う一番の理解者となる。しかし、その一方で友人のように仲がよかった父のヴィジュとは疎遠になってしまう。

シーズン2では、トラックバーの中で行われていたアミット(プラバル・パンジャビ)のスタンドアップコメディショーを見て、そのジョークに反発したことがきっかけで、アミットの相手役としてコメディエンヌの道に進むことに。

それがきっかけでふたりは急接近し、体の関係になったことでアミットはシディを恋人と思っているが、シディはあくまで友人だと言い張り……。

■アンジャナ・メノン(キールティ・クルハーリー)

腕の立つインテリ弁護士。バツイチのシングルマザーで元夫ヴァルン(ニール・ボパラム)との間に娘のアーリヤがいる。ヴァルンには恋人の(のちに結婚)カーヴィア(アムリター・プリー)がいる。

最初はカーヴィアと険悪な関係であったが、アーリヤがヴァルンの家にも行くことがあるため、カーヴィアと何度も顔を合わせるうちに、友人関係になる。

男性優位主義の弁護士の世界で、女性差別を受けながらも男性にも権力にも屈しないが、ときには弱い一面も。

新人弁護士のアルジュン(アンクル・ラティー)と恋愛関係になるが、アルジュンは自分よりも若くて結婚願望があることから、結婚や出産はしばらく考えられないアンジャナは、アルジュンの想いに答えられないと悟り、自ら身を引く。

また最初は敵対関係であった弁護士のシャシャンク(サミール・コッチャル)は、既婚者であったものの、体だけの関係と割り切って泥沼関係になってしまう……。

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