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この映画語らせて!ズバッと評論!!『苦い涙』フランソワ・オゾンが影響を受けたドイツの映画作家の名作を自らリメイク!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『苦い涙』フランソワ・オゾンが影響を受けたドイツの映画作家の名作を自らリメイク!!

作品情報

著名な映画監督ピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)は、恋人と別れて激しく落ち込んでいた。助手のカール(ステファン・クレポン)をしもべのように扱いながら、事務所も兼ねたアパルトマンで暮らしている。ある日、3年ぶりに親友で大女優のシドニー(イザベル・アジャーニ)が青年アミール(ハリル・ガルビア)を連れてやって来る。艶やかな美しさのアミールに、一目で恋に落ちるピーター。彼はアミールに才能を見出し、自分のアパルトマンに住まわせ、映画の世界で活躍できるように手助けするが…。

『苦い涙』レビュー

©2022 FOZ -France 2 CINEMA -PLAYTIME PRODUCTION©Carole BETHUEL_Foz

フランソワ・オゾンが影響を受け、映画制作のお手本にしてきたドイツの映画作家 ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの名作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』をオゾン自らの手でリメイクした本作。

オゾンは以前にもファスビンダー原作の戯曲『焼け石に水』を映画化しているが、リメイクというのは今回が初めてだ。

ファスビンダー版は主人公が女性だったのに対して、今作では男性に置き換え、男性同士の恋愛が描かれいる。オゾン自身が同性愛者であるという点でも、自分自身に共通性があるキャラクターとして変換させたのだろう。

作品の中にオゾン自身の実体験を投影させる手法自体がファスピンダー的ということもあって、オリジナル版をそのままリメイクするのではなく、自身のマイノリティに合うように変換させたことは決して道から逸れているわけではない。

オゾンは以前から原点回帰を何度かしてきた傾向はあったものの、特に近年では、自分の作家性のルーツを改めて探求することが多くなっており、『Summer of 85』の場合もそうだったし、前作の『すべてうまくいきますように』も今まで扱ってきた「死」というテーマを変化した現代的価値観を反映しながら改めて描いていた。

今作もオゾンの作家性のルーツであるファスビンダーの作品をリメイクするというのは、映画作家として次の段階に進む、ひとつのハードルといったようなオゾンにとっての大きな意味があったに違いない。

制作意図としてはそん感じではあるものの、今作は何よりコメディとして良く出来ている。

主人公はオゾンの作品では常連のドゥニ・メノーシェ演じるピーターなのだが、視点としてはアシスタントのカールなのだ。カールの目線を通して、ピーターという中年男が乙女のように恋に溺れて、堕落していく様を俯瞰的に眺めているような物語となっていて、それでいてカールにはセリフが用意されていない。

つまりカールの視点は、観客と同じ視点ということを意味している。本人たちにとっては悲劇だとしても、それを離れたところから見ると喜劇でしかないということだ。

©2022 FOZ -France 2 CINEMA -PLAYTIME PRODUCTION©Carole BETHUEL_Foz

点数 80

©2022 FOZ -France 2 CINEMA -PLAYTIME PRODUCTION©Carole BETHUEL_Foz

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