作品情報
ライブハウスが歓声で揺れている。光の中心にいるのは、バンドでギターとボーカルを担当する主人公・川嶋。人気ミュージシャンとして輝く光を放つ彼にも、”あの頃”がある。まだ誰でもなかった”あの頃”。無名の彼を支えたのは、運命的に出会った人々だった。ミュージシャンになる夢に気づかせてくれた美咲、明るい笑顔の下に孤独を抱えていたユキナ、夢を追いかける背中を押してくれたユリ、父親のような存在のバイト先のオーナー、そしてバンドのメンバーたち。多くの人々との出逢いと別れ、そして絶望や衝突を不器用ながらも乗り越えた”あの頃”。路上で歌っていた頃から、メジャーシーンに辿り着くまでを振り返りながら、川嶋は今日もあの頃の自分のような誰かのために歌っている。そして、約束を果たせないまま別れてしまったユリのことを今も想っていた…。
『さよなら、バンドアパート』レビュー
売れないアーティストが現実と夢の間で葛藤するという映画やドラマは、これまでにも山ほど作られてきたが、今作は圧倒的に違う点がある。
それは、すごく売れているわけでもなければ、逆にドン底というわけでもない。しかし生活は成り立っていない、中間的なアーティストの物語を描いている。
実はアーティストは、この中間層が圧倒的に多いのだ。
失敗して、才能がないと打ちのめされた状態であれば、音楽の道を諦めることは逆に簡単なのかもしれない。
ところが、それなりに才能が認められ、仕事もないわけではない。メジャーデビューの可能性もゼロではない。それでいて、バーやライブハウスなんかで歌って、なんとか食つなぐことはできている状態。
素人ではないけど、プロと言われても自分で納得ができないような、絶妙な中間点。
だからこそ抜け出せない煮え切らない日々……。
そんなもどかしさを、かなりリアルに描いた作品といえる。
多くのアーティストの共感をよぶというのは、つまりそういう点が心に突き刺さるのだ。
だからこそ魅力的な作品であると同時に、残酷な現実を描いた作品でもあるといえるだろう。
点数 79
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