作品情報
舞台俳優であり演出家の家福は、愛する妻の音と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう――。2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。さらに、かつて音から紹介された俳優・高槻の姿をオーディションで見つけるが…。喪失感と“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福。みさきと過ごし、お互いの過去を明かすなかで、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく。人を愛する痛みと尊さ、信じることの難しさと強さ、生きることの苦しさと美しさ。最愛の妻を失った男が葛藤の果てに辿りつく先とは――。登場人物が再生へと向かう姿が観る者の魂を震わせる圧巻のラスト20分。誰しもの人生に寄り添う、新たなる傑作が誕生した。
『ドライブ・マイ・カー』レビュー
海外の映画賞で話題になっているのは、マーケットの売り込み方によるもので、自己発信で海外に輸出しているだけに、全ての邦画の中から抜粋されたというイメージを持っている人は、残念ながら間違いだ。
今作は、それもふまえて、日本国内というより、”よそ行”を想定して、作られているのだろう。雰囲気としては、日本映画というより、フランス製人間ドラマのような印象を受けるのも、そういったことからだろう。
ヨーロッパを意識したドラマ、画作りをすることは、日本映画が海外のマーケットを狙ううえでは必要なのだと、過去の是枝作品を含めて、改めて感じた。
日本映画の印象は、マーケットの偏りやタランティーノなどの影響も大きく、時代劇やエログロが強いため、突然文芸作品のような作品が飛び出してくると、逆に目立つという、日本のヘンテコ印象を巧みに利用したようにも思える。
決して悪い作品ではないが、ロビー活動があまりできないアカデミー賞は正直、難しいという印象。ただ国際長編映画賞においては、受賞の可能性は高いだろう。
もうひとつの可能性としては、もともと別の短編3作をひとつに繋げ、その中で独自の作品に再構築したという点では、脚色という点においても優れていることから脚色賞も狙えるのではないだろうか。
世界的に多くのファンを抱える村上春樹作品の映画化として思い出されるのは、松山ケンイチ主演の『ノルウェイの森』や韓国で映画化された『バーニング 劇場版』などがあるが、賛否は激しく別れるものの、毎回世界中から注目を集める村上春樹作品の映像化としては、一番注目を集めているのは間違いない。
共に”何か”を抱えた、家福とみさきの、互いに干渉し合わない独特の距離感の中で自然に芽生える、互いを想う気持ちが、決して恋愛感情ではない、友情関係でもない、独度の関係性。それを約3時間という長時間をかけて、ゆっくりと構築していき、観ている側にも感じさせる、全体を通しての演出力は流石といったところ。
家福とみさきの距離感が、全体的に多くを語らない、説明されない今作を観ながら、拾い集めていく観客の意識ともリンクしていく構造になっていることも要因として大きい。
それらを考慮したうえで、家福よりも、みさき側に感情移入すると、物語の本質をより理解し、何より楽しめることは確実だ。
点数 80
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