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この映画語らせて!ズバッと評論!!『21世紀の資本』いくら働いても豊かになれない構造教えます!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『21世紀の資本』いくら働いても豊かになれない構造教えます!!

作品情報

2014年に日本でも発売され、ブームを巻き起こしたフランスの経済学者トマ・ピケティの同名経済学書を映画化した社会派ドキュメンタリー。35カ国で翻訳され、経済学書としては異例の300万部という売り上げを記録したトマ・ピケティの「21世紀の資本」を、著者のピケティ自身の監修、出演で映像化。700ページを超えるため、完読が困難とも言われるこの本を専門家でない一般の人も五感で理解できるように難しい数式などを用いず映像で表現していく。『ウォール街』『プライドと偏見』『レ・ミゼラブル』『ザ・シンプソンズ』といった映画や小説、ポップカルチャーなどを使った構成で、「資本」の観点から過去300年の世界各国の歴史を切り取っていく。フランスのエレクトロポップデュオ「エール(Air)」のジャン=ブノワ・ダンケルが音楽を担当。

『21世紀の資本』レビュー

フランスの経済学者トマ・ピケティの分厚く辞書のような「21世紀の資本」は2013年にフランスで出版され、翌年には日本でも翻訳され、世界的にベストセラーとなった経済本ではあるが、名前は知っていても読み切ったという人は少ないのではないだろうか。「21世紀の資本」の解説本のようなものが何冊か出版されたりしていたため、元の本よりガイド本だけ読んで終わってしまったという人も多いと思う。私もテレビの特集などで少し観たりした程度だった。

内容に触れる前に、トマ・ピケティの経済論ではなく、あくまでドキュメンタリー映画としてパッケージングのされ方について言うと、非常に解りやすい構造の映画となっている。

難しい経済用語をただ並べるだけではなく、音楽や皮肉的なグラフィックや映像を使用することで、どことなくポップに感じられる部分もあったりと、他の経済ドキュメンタリーとは一線を引いている作品だ。

特に『プライドと偏見』『怒りの葡萄』『ウォール街』『ザ・シンプソンズ』といった幅広いジャンルの作品でありながら、その時代、時代の世相を反映させているものを部分的に挿入することで非常にカラフルな作品にも仕上がっている。

アニメや音楽を挿入する編集方法としては、マイケル・ムーアにも少しだけ似ている部分もあるが、彼のように過剰なパフォーマンスで描くべき論点をブレさせるものではない。

いきなり「21世紀の資本」を読みなさいと言われても、ハードルが高いかもしれないが、この映画は「21世紀の資本」を入り口として、子供にも観やすい作品だと感じた。

逆に言えば全体的なディティールや論じたいことは映画だけでも理解できるが、格差社会がここまで広がってしまった構造を丁寧に読み解くという部分では、本を読んだ方がより理解できるのだろう。

本の方も読んでみよう、別の角度からも調べてみたい、と観ている側に題材に対しての興味を持たせるというドキュメンタリー映画の本質の部分では、上手く機能しているのではないだろうか。

何故、ここまで堅苦しなく、好奇心を掴むのが上手い構造となっているかというと、監督のジャスティン・ペンバートンと製作のマシュー・メトカルフは、ドキュメンタリー作家でありながら、ミュージックビデオも製作した経験があることから、表現の幅が広いのだ。

監修として著者であるトマ・ピケティも参加しており、本人も出演している。本の内容は出版された2013年頃までのものが多いが、映画が製作された2019年までの間のことも含まれているため、後半は本の続編的な部分もあるのだ。

戦争や革命など歴史に残るような事件がなければ、貧富の差が埋まらないという歴史と統計からはじき出した事実が本と映画の中でも提示されるが、新型コロナウイルスは、正にピケティが言う変革が起こりうる事態である。

「21世紀の資本」の続編は、現代を生きる私たちが作っていかなければならない。それがハッピーエンドになるか、バッドエンドになるかは、人間そのものの古臭い考え方や概念を今こそ崩さなければならないという点でも強烈な余韻を残すし、 新型コロナウイルスがもたらす、大量の失業者や企業倒産が目の前に立ちふさがる、このタイミングでの公開というのが恐ろしい。

勘違いをしてはいけないのは、問題定義はするものの、そこに進み解決を促す映画ではない。あくまで世界の経済の仕組みを知ってください、という教科書的なものだ。

10年以内に運転産業がAIによる自動運転などによって、奪われるとも提示していて、他の産業でも同様に危機に直面している。新たな産業革命はコロナウイルス騒動で早まることは間違いない。

このまま行けば、貧富の差は更に広がっていくだろう…がんばって働けば豊になれるというのは、幻想のように聞こえる人もいるかもしれないが、世界経済の現状を知ったうえで生きていくことで、今までの常識や概念を捨てて、柔軟な考えでいれば、明るい世界の未来を見つけていけるのかもしれないが、現状では難しいだろう…

モノポリーによる立証実験

富を持った者の態度や価値観の変化を、ボードゲーム「モノポリー」を使って実験をしたというエピソードもユーモアがありながら、皮肉的なのが印象に残る。

映画化が決まっている「モノポリー」は、ゲーム化やキャラクターのコラボ商品などによって、長年の間愛されている定番中の定番といったボードゲームである。

日本でも発売されているし、「いただきストリート」や「人生ゲーム」などは、「モノポリー」がベースとなっている。

そんな「モノポリー」のゲームルールは、サイコロを振って土地や鉄道などを購入していき、自分の所有物とすることで、別の誰かが止まれば、お金を奪ったりすることができるし、逆にお金を持っていれば買収もできるという売買を繰り返しながら、土地を独占したり相手を破産させるというものだ。

ランダムに選ばれた、人達に「モノポリー」を遊ばせた結果…有利になった人は、口数が増えたり、強気になったり、自慢をするようになったりする。ただ、先にマスに止まって、相手が運悪く高い土地に止まったりしただけだというのに、有利に立った方は、あたかも自分の実力のように錯覚したのだ。

これは富裕層が貧乏人を下に見て、人間的に自分の方が優れているという錯覚と同じものなのだ。たかがゲームであるのにだ…

映画やドラマ、漫画などの様々な作品において、お金持ちが上から目線でイヤミったらしく、その子供たちも態度が遺伝しているという光景をよく目にするが、これは人間の持つ醜い部分が難しい研究からではなく、ただのボードゲームによって立証されてしまったのだ。


働くことが嫌になりそうなr>gの図式

資本収益率をr、経済成長率をgとして、世界のお金の動きの過去300年を統計した結果、富裕層達の資本収益率の方が、経済成長率よりも上回っていたのだ。

資本収益率が4~5%に対して、所得成長率が1%前後。イギリスでは上位1%の富裕層が全体の70%の土地を所有しているという、目を背けたくなる現実の数々。

貧乏暮らしから逆転して、富裕層となった人物は確かにいる。しかし、貧しさをしっているはずの人間が富裕層となると、タックスヘイブンによって、税金逃れに走ったりして、国にお金を落とさないため、富裕層をいくら生んでもリターンがなくなってしまっているという現状もあるのだ。


点数 80点

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