作品情報
幸せになる香りを放つという新種の植物がもたらす不安を描き、主演のエミリー・ビーチャムが第72回カンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞した異色のスリラー。幸せになる香りを放つ新種の植物「リトル・ジョー」を開発した研究者でシングルマザーのアリスは、ワーカホリックで息子のジョーときちんと向き合えていないことに罪悪感を抱きながら、日々の研究にいそしんでいた。息子のジョーへの贈り物として、彼女にとってもう1人の息子であるリトル・ジョーを自宅に持ち帰る。しかし、リトル・ジョーの香りを嗅いだジョーが奇妙な行動をとり、花粉を吸い込んだアリスの助手クリスもいつもとは違う様子を見せ始める。監督はミヒャエル・ハネケの助手を務め、『ルルドの泉で』で注目された気鋭の女性監督ジェシカ・ハウスナー。
『リトル・ジョー』レビュー
人間というのは、気づかないうちに「何か」に支配されている。例えば酒、たばこ、AI、SNS、お金、概念、政治...目に見えるのから、見えないものまで様々だ。 そんな中で「植物」が人間を支配しているといっても、何ら不思議ではない。現に植物で言えば「麻薬」もあらゆる意味で人間を支配している。
幸せになる香りを放つ新種「リトル・ジョー」は、花粉によって人間の意識を操り、それを感染させていくのだが、感染したからといって、重病化したり死んだりするわけではない。
少しだけ微妙なラインで人間の性格や行動を支配していくだけ。だからこそ表面化しないで、静かに感染していき、価値観も自然に変化していくという恐ろしくても、恐ろしいこと自体に気づくことができないという、支配による真の恐ろしさを描いている。
私たちの考え方や行動が実は、「何か」によって作られているものかもしれない。
自分たちが創り出してしまった責任や罪悪感もありながら、創造を絶する新種を誕生させたという開発者としての達成感との間で揺れ動く主人公アリスの視点で描かれるが、彼女自身も次第に感染していくという救いのない展開となっていく。
全体的に静かなトーンで構成されている作品のため、BGMや何気ない演出がアクセントのように凄く目立つのだが、予告でも使用されている日本の作曲家・伊藤貞司による和テイストの音楽が「何か」が起こるときに決まって流れる。
それが2、3回ならいいが、さすがに毎回となるとしつこい!!歌舞伎や能を観ているわけじゃないんですよ...「いよ~」って言ってほしいのだろうか?
2014年の『嗤う分身』という作品では、ブルーコメッツなどの60年代を代表する日本昭和歌謡がサウンドトラックとして使用されていたが、物語にしっかり同化していたのに対して、今作は完全に分離してしまっていて、音楽や演出によって全体的な緊張感が台無しにされてしまっている。
発想やテイストは良いし、アート映画のような視覚的に楽しめる部分もたくさんある作品ではあるが、もう少し作品に演出や音楽を馴染ませてほしかった。
キャストの点では、主演のエミリー・ビーチャムの自然体な演技が物語にリアティを与えているし、『パフューム ある人殺しの物語』では、究極の香りの香水を求めていたベン・ウィショーが今回も別の香りを描いた作品に出演しているという点も興味深い
点数 70点
- ネットもSNSも遮断されたインドの全寮制女子高を舞台に、少女たちは”自分”とは何者なのかに葛藤する!!『女子高生は泣かない』
- 第96回アカデミー賞:映画評論家バフィー吉川の最終受賞予想!事実上『オッペンハイマー』のひとり勝ち状態か?!
- インド音楽界の歴史が動いた!22年ぶりのメジャーガールズユニット”W.i.S.H.”誕生!K-POPに次ぐ世界市場を狙う!!
- この映画語らせて!ズバッと評論!!『マダム・ウェブ』始まらないドラマのプロローグを観ているような感覚になるが、若手女優たちが唯一の救い!!
- 【ちょこっとレビュー】地域復興ムービーとして応援したい気持ちを裏切るほど中途半端な主人公像『レディ加賀』
コメントを書く