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この映画語らせて!ズバッと評論!!【第36回東京国際映画祭SP】『Totem』子どもの視点から描く最後かもしれない父の誕生パーティ……

この映画語らせて!ズバッと評論!!【第36回東京国際映画祭SP】『Totem』子どもの視点から描く最後かもしれない父の誕生パーティ……

作品情報

7歳の少女ソルは、祖父の家で父親のためのパーティーの準備を手伝う。やがて彼女はその日がかけがえのない日になることを知る…。ベルリン映画祭でエキュメニカル審査員賞を受賞。

『Totem』レビュー

ホームビデオを回しているようなドキュメンタリータッチの作品。

闘病中でもう長く生きることができないと悟った父と家族、親戚たちによる父の誕生会を7才の少女の視点から描いていく。

闘病のために実家で暮らす父に久しぶりに会える喜びが抑えきれない無邪気な少女ソルだが、その誕生日会が単なる誕生日会ではないとを、親戚同士の会話や表情の変化などを部分的に拾い集め、子どもながらに違和感を感じとり、次第に悟っていく。

しかし、その正体が死というものに直結することはわからないのかもしれないが、何か普通の状態ではないと感じているのは確か。

そういったソルの些細な心の揺らぎを観客に感じさせる技術とソルを演じたナイーマ・センティーエスの見事な演技は必見といえるし、とくにラストでみせるナイーマの表情が一瞬大人のようになることで、ソルが全てを悟ったことを表しているのも見事な演出だといえる。

全体的にシリアスな作品としてはコーティングされておらず、細かい笑える要素も散りばめられていて、子どもから見た大人の不可思議さがコミカルに描かれている。その点では「ロッタちゃん」シリーズでもお馴染みのアストリッド・リンドグレーン作品、あるいは『ラモーナのおきて』などのビバリー・クリアリー作品のような女の子が主人公の児童文学的側面もある作品だといえる。

ものごとの捉え方が、あくまで子どもの視点から見たものとして描かれていくこともあって、徹底的に子どもの視点に寄り添っているからなのか、カメラは低い位置に固定されていることが多かったりする。

子どもの視点に立ち返って観るのが一番良いのだろうが、そんなことは、大人には雑念が多く、実際問題できることではない。しかし、今作を通して子どもの視点に”立ち返った気”にはさせてくれる。

子どもの視点ばかりが描かれているのかというと、決してそうではなく、親の視点、そしてそれを見守る親族の視点が交差している。子どもの成長を見ることができない悲しさや悔しさ、無力感といった、何ともいえない感情が痛いほど伝わってくるのは、観ていて辛い部分もあったりする。

点数 85

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