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この映画語らせて!ズバッと評論!!【第36回東京国際映画祭SP】『エア』ソ連の女性兵士たちの活躍と犠牲を描く容赦なき戦争映画!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!【第36回東京国際映画祭SP】『エア』ソ連の女性兵士たちの活躍と犠牲を描く容赦なき戦争映画!!

作品情報

第二次世界大戦の独ソ戦を戦う女性パイロットが遭遇する過酷な日々を年代記的に描く作品。これまで描かれることの少なかったソ連の女性兵士に『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』(18)のアレクセイ・ゲルマン・ジュニアがスポットを当てた戦争映画。

『エア』レビュー

『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』では、作家セルゲイ・ドヴラートフの視点から第二次世界大戦のレニングラードを中心に描いていたアレクセイ・ゲルマン・ジュニアだが、今作は戦時下において人手が不足したことから、男性と一緒に戦地で戦うことを強いられながらもあまり語られることのない女性兵士にスポットを当てて、再びレニングラードを舞台に描いた戦争映画。

主人公はかつてバレエダンサーを夢見ていたパイロット。一緒に戦地に駆り出された女性兵士と女子会トークのように交友を深めながらも確実に忍び寄る、明日は死ぬかもしれないという恐怖。そして実際に目の前で男も女も血や肉片となり飛び散っていく現場の悲惨さを容赦なく描いている。

そこには神など存在せず、あるのは人間と技術だけ。偽善や責任逃れに正義を語るものの、死に対して、相手を殺すことに対しての恐怖やためらいが明らかに勝っている戦場の空気感をヒーローではなく、あくまで普通の感覚を持ち合わせた女性の目を通して描くことでより鮮明で残酷に描いていく。

唯一のエンタメ要素が入るとすれば、独ソ連側にもエースパイロットらしき男かせいて、互いに相手の顔も素性も知らないわけだが、技術は認め合うような精神的ライバルのような存在が登場する。クリント・イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』のなかでも敵のスナイパーとの戦いにエンタメ要素を持たせていたが、ドラマ重視作であればそういったエンタメ要素は邪魔になると感じる人もいるだけに、この部分に関しては好みは大きく別れるだろう。

また今作、実は本当の意味での男女平等を描いた作品ともいえるだろう。

女性が中心となっている物語だからフェミニズム作品というような単純な話ではない。もちろんそういったお決まりの女性蔑視からの解放なども描かれているのだが、戦地に行けば男も女も関係ないということを描いている。

つまり男女平等を突き詰めていくと、女性も戦地に行って、男たちと一緒に戦い死んでいくことも該当してくるということだ。

戦争自体がどうかという、そもそも議論は別として、男女平等といっても一方では男ばかりが汚れ作業をしなければならない環境も存在している。そこに男女平等を持ち込むとするのであれば、女性も手を汚さなくてはならないというような、何が何でも男女平等が良いというわけでもない。そんな皮肉的なメッセージも裏に込められた作品にも思えた。

点数 82

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