作品情報
舞台は現代のベトナム。キット(ヘンリー・ゴールディング)は、両親の遺灰を埋葬すべく、30年ぶりに祖国であるサイゴン(現ホーチミン)に足を踏み入れる。キットは6歳のとき、家族とともにベトナム戦争後の混乱を逃れてイギリスへ渡った、“ボート難民”だ。以来、これが初めての帰郷だった。もはやベトナム語すらままならない彼は、英語が話せる従兄弟のリー(デヴィッド・トラン)の助けを借りながら、どこか大事な場所を探し始めるが、思うようには進まない。サイゴンは今やすっかり経済成長を遂げ、かつての姿は見る影もなかったからだ。そんな中、ネットで知り合ったアフリカ系アメリカ人のルイス(パーカー・ソーヤーズ)と一夜をともにするキット。ルイスの父親はベトナム戦争に従軍したという過去を持ち、そのことを隠してこの国で暮らしていた。
『MONSOON/モンスーン』レビュー
ベトナム戦争のときに混乱を避け、国外に避難したボート難民であるキットが、6歳のころの脆い記憶を辿りながら、故郷に30年ぶりの帰還。
ベトナム人でありながら、母国語よりも英語しか喋れない。ホーチミンは自分のあやふやな記憶にある頃とは、全く違うほど経済発展を遂げている。
今作はキットの自分のルーツを探求するロードムービーであると同時に、異国から見た、現在のベトナムを映し出している作品ともいえる。
唯一の知り合いである従兄のリー。英語が少し話せるとはいっても、ときどき会話がままならない。一番近い人物とのコミュニケーションもままならないことから、自然と話しをする相手は、英語の話せる観光客やグローバル企業なとに努める若い世代。
故郷であるはずなのに、疎外感や喪失感を味わうキット。子どもの頃に遊んだ池は跡形もなくビルになっていて、そのビルさえもすでに過去の産物になりかけている。 ノスタルジーに浸れるような場所がどこにもない。
戦争に限らず、何かしらの理由で、母国を離れた移民の人々には、少なからず共感できるような作品ではあるが、何よりもキット役の ヘンリー・ゴールディング 自身がその経験者だ。
ヘンリーは7歳から、イギリスで育っているが、生まれはマレーシア。大人になってから、自分のルーツを探しに20代の頃にマレーシアに帰国していることもあって、半自伝的要素も感じられる役どころである。
ヘンリーのいつもとは違った、繊細な演技をみられるのも、自分の経験を重ね合わせながら演じているからなのだろう。
点数 75
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