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この映画語らせて!ズバッと評論!!(先取り版)『TOVE/トーベ』酒とタバコとセックスとムーミンと…

作品情報

日本を始め世界中で愛されるムーミンの物語。それは画家としてキャリアをスタートさせたアーティスト、トーベ・ヤンソン自身の人生を投影して生み出されたものだった。文学、コミックス、舞台芸術、アニメーションなど、今日においても色褪せること無く人々を楽しませ続けるムーミンのキャラクターたちは、いかにして生み出されていったのか。本作はトーベ自身の人生のあり方とともに、その創作の秘密に肉薄してゆく。本国フィンランドでは公開されるや大絶賛で迎えられ、スウェーデン語で描かれたフィンランド映画としては史上最高のオープニング成績を記録。公開から約二カ月にわたり週間観客動員数ランキングで連続1位を維持するなどロングラン大ヒット。更に第93回アカデミー賞国際長編映画賞フィンランド代表へ選出されたのをはじめ、数々の映画賞を席巻した。

先取り版とは?

私、映画評論家バフィーがマスコミ試写で、いち早く観て評論する先取り版です。通常回では、公開日もしくは前後に更新していますが、毎週10本以上の新作を観ていて、量が多く大渋滞状態ということもあって、先取りもしていきます。

ダメな作品はダメと言いますが、基本的にネタバレを垂れ流して、映画自体を観なくてもいいような評論はしません。

『TOVE/トーベ』レビュー

© 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved

作品が評価されるミュージシャンやデザイナー、作家の知られざる顔を描いた映画というのは、今までにも多く製作されてきた。

例えばDCコミックスのワンダーウーマンの作者であるアィリアム・モートン・マーストンの物語を描いた『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』や「クマのプーさん」の作者A・A・ミルンの物語『グッバイ・クリストファー・ロビン』など、小さい頃から親しまれている国民的なキャラクターの背景にある、作者の見えない人生を描いた作品というのもあったりする。

宮崎駿やルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」も小児愛者的な性癖も反映されていたりするが、作者の人物像から作品として分離し、独立したものを私たちは楽しんでいるだけに過ぎない。しかも、それが児童文学だったりすると衝撃は大きいわけだが、そもそも大人が児童文学や子供が楽しむものを同目線で作るとができるという時点で、変わった人物であることは必然なのかもしれない。

ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターを描いた『ミス・ポター』のように、夢を壊さないバランスの作品もあったりするが、今作はムーミンという、いかにもメルヘンチックなキャラクターの影が付いて回り続ける中で、物作りへの情熱や「ザ・メイキング・オブ・ムーミン」といったような製作過程では全くなくて、トーベ・ヤンソンの人間性がメインに描かれていく。

戦争被害の余韻が残るフィンランド。保守的な芸術家両親の影響で、トーベ自身も芸術の道を進む中で、格式高い芸術界よりも、少しポップな漫画やイラストに興味があるといった、両親、特に父親への反発心だったり、自分なりの「自由」の解釈によって誕生した「ムーミン」という存在。

そんな「ムーミン」は、生活のために絵画だったり、アート製作をしていたトーベが、隙間時間に趣味程度で描いていたものでもある。

アメリカにおいてのヒッピー文化は、1960年代頃から一般的にムーブメントして知られるようになったわけだが、もともとは芸術家の思想が様々な宗教や概念が組み合わさって構築されていったことが背景にあるように、芸術家の世界というのは特殊なものであり、保守的な芸術家がいる一方で、反発するかのように極端に真逆なものも存在している。

トーベもそんな芸術家のコミュニティで、常識に囚われない考えたや生き方をしたいと思っていた中で、男性パートナーと女性パートナーに出会い、同時に関係をもつようになっていくが、「自由」という考え方も人それぞれが違う解釈であったりもする

そのそれぞれが考える「自由」も実はアンバランスであったりして、「自由」に対しての葛藤が日々されていく。

女性と関係をもったのも、当時、フィンランドは同性愛は病気の一種という考えであり、重罪とされていた。そんな国や常識に囚われない考えこそが「自由」と感じ、女性とも関係をもったという側面もあるのかもしれないが、不安や嫉妬から、自分が遠ざけていたもの、例えば「結婚」という風習に囚われた概念を受け入れてしまいそうにもなる。

という様に徹底的に「ムーミン」ではなく、トーベの人生観にフォーカスしていくところも、かなり特徴的な作品だ。

そんな私生活の中で生まれたキャラクターやセリフもあったりするのだが、何だか複雑な気持ちになってしまう。

『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』を観た後では、ワンダーウーマンのコスチュームがSMプレイの衣装に見えてしまうのと同様で、今後メルヘン色でコーティングされた「ムーミン」を良くも悪くも純粋に観れなくなってしまう。

絵本やアニメ、キャラクターグッズが数多く展開されてきた「ムーミン」だけに、世代を問わず愛されているだけに、「ムーミン」の映画と思って、子供を連れて観に行くような映画ではないと、注意しておいた方がいい..

CREDIT

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監督:ザイダ・バリルート
脚本:エーヴァ・プトロ
撮影:リンダ・ワシュベリ
音楽:マッティ・バイ
編集:サム・ヘイッキラ
出演:アルマ・ポウスティ(トーベ・ヤンソン)
クリスタ・コソネン(ヴィヴィカ・バンドラー)
シャンティ・ローニー(アトス・ヴィルタネン)
ヨアンナ・ハールッティ(トゥーリッキ・ピエティラ)
ロバート・エンケル(ヴィクトル・ヤンソン)

2020 年/フィンランド・スウェーデン/カラー/ビスタ/5.1ch/103 分
スウェーデン語ほか/日本語字幕:伊原奈津子/字幕監修:森下圭子

レイティング:G/原題:TOVE

協力:ライツ・アンド・ブランズ、ムーミンバレーパーク

配給:クロックワークス
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公式サイト http://klockworx-v.com/tove/

10 月 1 日(金) 新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国ロードショー

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点数 81

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