作品情報
1939年スペイン内戦により、避難先のフランスの強制収容所で難民となった実在の画家ジュゼップ・バルトリ。愛する人との再会を胸に、どんな現実も描くことで生き抜いた男の感動の実話。メガホンをとったのは、フランスの全国紙「ル・モンド」などのイラストレーターとして活躍してきたオーレル。ジュゼップが収容所で記した鮮烈なスケッチに触発され、10年の歳月を費やして遂に本作を完成させた。長編アニメーション監督デビューにして、セザール賞やリュミエール賞などヨーロッパの映画賞を総ナメし、東京アニメアワードフェスティバル2021で審査員をつとめた片渕須直監督が絶賛し、コンペティション部門長編アニメーシ
ョングランプリを見事獲得した。
先取り版とは?
私、映画評論家バフィーがマスコミ試写で、いち早く観て評論する先取り版です。通常回では、公開日もしくは前後に更新していますが、毎週10本以上の新作を観ていて、量が多く大渋滞状態ということもあって、先取りもしていきます。
ダメな作品はダメと言いますが、基本的にネタバレを垂れ流して、映画自体を観なくてもいいような評論はしません。
『ジュゼップ 戦場の画家』レビュー
独特のデザインで 1982年のイスラエル軍によるレバノン侵攻の中で起きた、サブラ・シャティーラの虐殺を描き、強烈な印象を残した『戦場でワルツを』を製作したセルジュ・ラルーが製作。
実在した画家にして、自分の戦争体験を描き残した戦場画家であり、風刺漫画家としても知られるジュゼップ・バルトリの物語を、クロッキー鉛筆画のタッチを強調した独特のアニメーションとして描き出す。
単純にデザイン的な観点からもおもしろい作品であるし、今年は『ベルヴィル・ランデブー』のリバイバル上映や『カラミティ』『DAHUFA -守護者と謎の豆人間-』などなど、多国の様々な特徴をもったアニメ映画が多く公開される。年々、そういった機会というのが増えている。
日本のアニメ産業もジャパニメーション、クールジャパンというブランドのように、世界に売り出していながら、その運営や現場の雇用体系は過酷なものが多く、結局は海外のアニメ製作会社に頼ったものが多くなっている。その結果、技術やセンスが他国にダダ漏れになっている気がしてならない。
アニメ産業は日本がトップだなんて、大きな態度でいられる時代は終わりつつあるのかもしれない…という話をしてしまうと、脱線してしまうので、それぐらいにしておこう。
美術をかじった人や学校で授業を受けたことがあれば、知っていると思うが、 今作で取り入れられている、 クロッキーというのは、素早く描くのが特徴ではある。簡単に言えば簡易デッサンといったところだろうか。
しかし、今作にはクロッキーではない、しっかりとした風刺画や1枚絵もいくつか印象的に映し出される。
つまり、その絵が生まれるきっかけとなった背景は、クロッキーのように描いて、それによって完成された絵は実物が映し出されるという仕組みになっていることで、メイキング的な側面もあるのだ。
ベトナム戦争の時代になると、多くのカメラやテレビカメラを持った戦場カメラノンが多く戦場に出向くようになり、死体だらけの悲惨な現状が、今の時代のコンプライアンス概念では考えられないぐらいに、普通に映し出されていたわけだが、それ以前というのは、カメラというのは、まだそれほど一般化していなかった。
あったとしてもプロパガンダとして使わることも多い中、リアルに体験した者の書き記された文章や今作のような絵は、その現状を知る手段のひとつとして、今も歴史的資料となっていることが多い。
風刺漫画というと、政治家や戦争をコミカルに描いていて、1800年代からすでにあったものであるが、近年の風刺画家は、例えば戦争であっても体験したというより、想像やテレビ、新聞、今であればウェブなどの情報を元に絵描かれることが圧倒的に多いが、ジュゼップの描く風刺画は正に自分の目で観て、体験したものが反映されているという点でも重みがかなり違っている。
普通のデッサンや一枚絵であれば、その描かれている被写体がどんな人物だったかを読み解くことは難しい。
しかし、風刺画という形態によって、その人物の人間性を浮き彫りにしているのだ。
クロッキーのソフトなタッチでありながら、そこに映し出される戦争の悲惨さというのは、決してソフトなものではない。
CREDIT
■監督:オーレル
■脚本:ジャン=ルイ・ミレシ
2020年/フランス・スペイン・ベルギー/仏語・カタロニア語・スペイン語・英語/74分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/原題:JOSEP/ 日本語字幕:橋本裕充
配給:ロングライド
公式サイト: longride.jp/josep/
8月13日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
点数 80
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