作品情報
『スターリンの葬送狂騒曲』のアーマンド・イアヌッチ監督が、イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの代表作「デイヴィッド・コパフィールド」を映画化。デイヴィッドは幼い頃、周囲の変わり者たちについて書き留めては空想して楽しんでいた。優しい母と家政婦の3人で幸せに暮らすデイヴィッドだったが、暴力的な継父によって工場へ売り飛ばされてしまう。どん底の日々の中でたくましく成長したデイヴィッドは、母の死をきっかけに工場から脱走。唯一の肉親である裕福な伯母の助けで上流階級の名門校に通い始め、今まで体験した“作り話”を同級生に披露して人気者となる。卒業後は法律事務所で働き、恋人もできてついに幸せを手に入れたかに見えたが……。『ウエディング・ゲスト 招かれざる客』『ホテル・ムンバイ』のデヴ・パテルが主演を務め、『デッド・ドント・ダイ』『コンスタンティン』のティルダ・スウィントン、「007」シリーズ、『リトル・ジョー』のベン・ウィショーが共演。
『どん底作家の人生に幸あれ!』レビュー
『オリバー・ツイスト』『大いなる遺産』など何度も何度も映画やドラマ、アニメ化がされ続けていて、日本でも毎年ホリエモンが『クリスマス・キャロル』の舞台公演をしているし、今後も『クリスマス・キャロル』の新作ミュージカルをウィル・フェレル主演で映画化される企画があるなど、世界中で愛されているイギリスの大文豪チャヘルズ・ディケンズの半自伝的作品『デイヴィッド・コパフィールド』自体も何度も映像化されている。
1999年にはハリー・ポッターで話題となる前のダニエル・ラドクリフが出演していたBBCのミニドラマシリーズも製作され、日本でもハリー・ポッターのヒットに便乗して、DVDがリリースされた。
ちなみに一時期日本公演でも話題となっていて、今ではすっかりラスベガスのエンターテイナーとなった、デヴィッド・カッパーフィールドの名前の由来はこれからきているのだ。作品自体も発音的にはカッパーフィールドの方が正しいらしい。
そんな『デイヴィッド・コパフィールド』の再映画化となるのだが、思い切って主人公にデブ・パテルを起用。デヴ・パテルは『ホテル・ムンバイ』『スラムドッグ$ミリオネア』などで知られる俳優でインドの俳優に思われがちではあるのだが、両親がインド系移民であるだけで、デヴ・パテル自身は生まれも育ちもイギリスの正真正銘のイギリス人なのだ。
しかし、見た目がインド系であるため、どうしても役として回ってくるのはインド人という役が多い中で、今回はちゃんとイギリス人として扱われていて、どんな身分やどんな人種の差別もしてこなくて、平等に描いてきたチャールズ・ディケンズの精神が反映されているようだ。
波乱万丈を絵に描いたような、怒涛の転落からの逆転劇で、裕福な家庭も貧しい家庭もどちらも経験したからこその、幅広い人間観察力というのは培われてきたのだと思わされる。
ディケンズの作品は、極端にお金持ちを悪としないで、あくまで平等に描いていているわけだが、それはひとつ転べば同じ立場になってしまうからであって、その背景として、当時イギリス経済不安なども反映されているわけで、ディケンズ自身が生きてきた時代が正に不安定な世界だったということが感じられる。
『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』など多くの作品で、貧困は描き続けているわけであるが、そんな中でも心まで貧しくならずに、どうにか人生を輝かせようと奮闘するちょっとクセのある、クセのありすぎる登場人物たちのアンサンブルはコミカルでおもしろいのもディケンズ作品の特徴でもある。
監督のアーマンド・イアヌッチは政治風刺が得意であるのだが、同時に皮肉交じりの会話劇を描くのも得意な監督なのだ。『スターリンの葬送狂騒曲』を観た時に「風刺漫画のような映画だな」と思った記憶があって、今回はそんなテイストとディケンズのテイストが見事に融合していて、ティルダ・スウィントンやヒュー・ローリーがオーバーリアクション演技で誇張されてはいるものの、キャラクターの本質は外さないのが流石だし、セリフ自体もやはりおもしろい。
評判になっているベン・ウィショーの絶妙な気持ち悪さは確かに必見である。
点数 85
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