作品情報
ブラック・メタル黎明期の中核的存在だったノルウェーのバンド「メイヘム」の狂乱の青春を鮮やかに描いた音楽映画。ノンフィクション「ブラック・メタルの血塗られた歴史」を原作に、ブラックメタル・バンド「バソリー」の元ドラマーで、『SPUN スパン』などで知られるヨナス・アカーランド監督がメガホンをとった。1987年、オスロ。19歳のギタリスト、ユーロニモスは悪魔崇拝主義を標榜するブラックメタルバンド「メイヘム」の活動に熱中していた。ボーカルのデッドはライブ中に自らの身体を切り刻むなど過激なパフォーマンスを繰り返し、彼らはメタルシーンで熱狂的な支持を集める。しかしある日、デッドがショットガンで頭を撃ち抜いて自殺してしまう。発見者のユーロニモスは脳漿が飛び散った遺体の写真を撮り、頭蓋骨の欠片を友人らに送付し、喧伝することでカリスマ化。「誰が一番邪悪か」を競い合うインナーサークルを作り、王として君臨するが、メンバーのヴァーグが起こした教会放火事件をきっかけに主導権争いが激化していく。ユーロニモス役に『スクリーム4 ネクスト・ジェネレーション』『サイン』のローリー・カルキン。
『ロード・オブ・カオス』レビュー
成行きやキャラ付けの一貫としてやっていたことが、思わぬ信者を呼び寄せてしまうという構造は、宗教や芸能界などに存在しているわれだが、ときに信者たち過激な行動に出てしまい、アメリカでバイオテロを起こしたバグワン・シュリ・ラジニーシの弟子シーラ・シルバーマンによるバイオテロやチャールズ・マンソンのマンソンファミリーによるシャロンテート事件、オウムのサリン事件と大規模な犯罪が発生してしまうことがある。
信仰宗教の教祖の場合、ビジネスとして、キャラとして認識して行っている場合が多く、実は周りの信者よりも冷静なのである。
『ジーザス・クライスト・スーパースター』でもユダがジーザスに信者たちが暴走していることを危険視して慌てふためくシーンがあるように、行き過ぎた信仰心というのは、信者から発生するものであり、その思想がよからぬ方向に向いてしまうとテロのような大惨事に発展してしまうのだ。
信仰心が失望に変わった反動による怒りや狂気性というのは、「ビートルズ」のジョン・レノンがファンのマーク・チャップマンによって殺害された事件でも感じられる。
こういった過程から、計り知れない恐怖にも繋がりかねないのだが、今作はミュージシャンの伝記映画によくあるメンバーの溝と比例して、悪魔崇拝”サタニズム”の暴走を描いているのがかなり特徴的な作品だ。
今作のテーマとなっているのは、ヘヴィ・メタルというジャンルの中でも、細かく分離されているブラック・メタル。ブラック・メタルの中でもまた更に枝分かれしていて、かなりディープな世界観ということが伝わってくる。
ヘヴィメタといえば、映画界でも活躍するロブ・ゾンビは、『マーダーライド・ショー』や『ロード・オブ・セイラム』といった、過激な作品を多く手掛けているだけに、どんな変態かと思いきや、実は常識人である。作品として完成させることができている時点で、異常者ではないように、創始者はビジネス的観点、クリエイティブ的観念の方が強い場合が多いのだ。
今作の監督であるヨナス・アカーランドも、元々はブラック・メタルバンド「バソリー」のドラマーとして活躍していた過去がある。過激な思想の歌詞があふれるようなアーティストも実は常識人であるし、そうでなければ、ただぶっ飛んでいるだけで、作品としてのクオリティは保てないようにも思える。
今作の主人公でローリー・カルキンが演じるユーロニモスも始めは形から入った、なんちゃって悪魔崇拝といった感じであって、初期メンバーのシーンはサークル活動のようで学生ノリの臭いがまだ漂っている状態だったのが、ヴォーカルとしてテッドが参加したことによって、事態は一変して、空気が少し変わっていく。
テッドという人物は、動物の死骸を嬉しそうに持ち歩くような本格的な狂人だったのだ。
歌の歌詞と同様に、テッドが自らナイフで体を切り刻み、客席に血を浴びせるという過激なパフォーマンスは、異常ではあるのだが、インパクトとしては絶大であり、異常になるほど、バンドとしては成功していくのも皮肉なことだ。
どんどん過激になり、そんなパフォーマンスに感化されたファン達が増えていくことで、ファンの意識も狂気的なものと成長していく構造が怖く、ミュージシャンとしての成功を味わった後では、もはや引き返せない。
そんな中で起きてしまうテッドのショットガンによる自殺だ。部屋中に飛び散った血や脳みそ、頭蓋骨の破片を観たユーロニモスは、恐怖よりもその異様な光景をビジネスに繋げようとするのだ。
そこから生まれたのが、最もショッキングなレコードジャケットともいわれるテッドの死体を写した「The Dawn of the Black Hearts」である。
非常にグロテスクであり、目を背けずにはいられないようなものであるが、それによってより注目を集めたのも事実なのである。
そこからファンになった信者たちは、更に過激度を増していき、そこに登場してくるのが、今作の後半の狂気性というものを一気に背負っているヴォルグの存在だ。
ユーロニモスたちが行っていたバンド活動、ビジネスとしての過激な思想をそのまま吸収して育った信者でもあるヴォルグの行動は、狂気性という点ではテッドにも通じるものがあったかもしれないが、ヴォルグは非常に他人に対して、世間に対しても攻撃的であったのだ。
過激なシーンが多く、ホラー映画、サスペンス映画として観る分には、かなり見応えのある作品ではあるし、少なからずフィクション要素は入ってるいるのだとは思うが、これが現実に起きていたことだと思って観ると、ホラー映画よりも恐ろしい映画ともいえるのではないだろうか…
作り物とはいえ、過激なシーン満載につき、鑑賞にはご注意を!
点数 80
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