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この映画語らせて!ズバッと評論!!『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』宇宙の秩序を乱すヴィランVSヴィラン
(c) Marvel Studios 2022

作品情報

元天才外科医にして、上から目線の最強の魔術師ドクター・ストレンジ。時
間と空間を変幻自在に操る彼の魔術の中でも、最も危険とされる禁断の呪文に
よって、“マルチバース”と呼ばれる謎に満ちたパラレルワールドの扉が開かれ
た──。何もかもが変わりつつある世界を元に戻そうと試みるも、もはやどうすることもできないほどの恐るべき脅威が人類、そして全宇宙に迫っていた――そんな中、ストレンジの前に立ちはだかるのは最凶の魔術を操る邪悪な“もう一人の自分”だった……。

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』レビュー

(c) Marvel Studios 2022

もともとホラー色が強くするといわれていた『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』だが、上手くマチルバース側に視点をズラしていた予告の見せ方が巧みだったといえる。

しかしその一方で、ホラー色に力が注がれていた分、マルチバース映画としては、少し大人しい印象が残る。

マルチバースだから何でもできた割には、遊びとしての要素がイルミナティぐらいしかなくて、他にもマーベルのキャラクターほチラ見せするほどの心の広さが欲しかったところだが、結局マーベルもディズニーも保守ということだ。これがDCだったとしたら、「Crisis on Infinite Earths」のように、もっと遊んでいたに違いない。

マルチバースでの遊びがない分、サム・ライミとしての遊びがふんだんに盛り込まれて、もはや、あからさまなほどに『死霊のはらわた』のオマージュシーンも散りばめられている。

勘違いしてもらいたくないのは、今回サム・ライミを起用したのは、『スパイダーマン』を撮った、ヒーロー映画監督としてではなく、かつてのトンデモ監督要素を欲したからであり、それはMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のフェーズ4が実験的なことを続けている姿勢とも一致してくる。

今作、Disney+のドラマ『ワンダヴィジョン』を観ていることありきで物語が展開される。最悪観なくても理解はできるだろうが、ワンダの抱えてる悲しみの重さを理解するには、観ておかないと感情移入し辛いのでは?と思うだけに、ドラマを観なくても問題ないと言っている人は、今作のドラマ部分の深さを理解しきれていない証拠だ。

それにしても、登場して以来、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で兄を失い、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、爆破を阻止しきれず被害者を出し、『アベンジャーズ/インフィニテイ・ウォー』で愛する存在を失い、さらに『ワンダヴィジョン』でも愛する存在を失ったことなど…… 終始救われないキャラクターであるワンダ。

そんなワンダの製作サイドへの怒りをメタ的に反映していると考えると味わい深い。その怒りがホラーに変換されているのは、恐ろしいと悲しいが見事に共存している。

あえて血まみれにさせるなど、ここぞとばかりに「恐怖の母親」映画感を見せつけるのも、かなりにくい演出だが、今までの倫理観は崩壊してしまい、被害者をかなり出してしまっただけに、ドラゴンボールみたいに死んだ人たちを生き返らせない限りは、ワンダがヒーローとして復帰するのは、難しいだろう。

別の世界で子どもたちと暮らしているワンダも、『ワンダヴィジョン』の仮想世界が続いている場合だと考えると、善の存在とは言い切れない部分もある。

また、ドラマを観ていないとわからないのは理不尽という声もあるかもしれないが、そもそもMCUは、コミックとも連動していて、例えば『アベンジャーズ』にウォーマシンが登場しなかった理由などもコミックで描かれている。映画だけでは、もともと理解できない部分は多く存在しており、その都度コミックなどで補足されていた。それは今更な話でしかない。

今作において、ストレンジもワンダもヒーローというより、どちらもヴィランに近い。ストレンジも別の世界から見れば、世界を破壊する者、秩序を乱す者であることは間違いなく、世界によってはストレンジはワンダ以上の脅威である。それを真正面から説明してくれているのには、清々しさも感じたほど。

前作の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』も同様だが、ヒーローたちが問題を発生させ、そこにヴィランが寄ってくるというパターンを、今回も繰り返していて、ヒーローも場所や立場が違えば、それはヴィランと紙一重ということが痛いほど伝わる作品でもある。

おもしろいことに、最近問題を起こしている者たちは、偶然にもサノスのスナップによって消されていた人物たちだ。つまりサノスは、結果的には、今起きているマルチバースの崩壊を阻止していたことになる。

そう考えると、エターナルズたちがサノスとの戦いに介入しなかった理由も納得できる。

ヒーローたちが秩序を乱し、自分たちで処理して、その余波が世界の人々、別の宇宙の人々まで苦しめる結果となっていることからも、ヒーロー側もサノスとやっていることが、いよいよ同じになってきたということであり、MCUにおいては完全にヒーローとヴィランの境界線がユルユルになっているとしか言いようがない。

(c) Marvel Studios 2022

点数 85

(c) Marvel Studios 2022

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