作品情報
「8人の女たち」「2重螺旋の恋人」のフランソワ・オゾン監督がフランスで実際に起こった神父による児童への性的虐待事件を描き、第69回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞した作品。妻と子どもたちとともにリヨンに暮らすアレクサンドルは、幼少期にプレナ神父から性的虐待を受けた過去を抱えていた。アレクサンドルは、プレナ神父が現在も子どもたちに聖書を教えていることを知り、家族を守るために過去の出来事の告発を決意する。彼と同様に神父の被害に遭い、傷を抱えてきた男たちの輪が徐々に広がっていく中、教会側はプレナの罪を認めながらも、責任を巧みにかわそうとする。信仰と告発の狭間で葛藤するアレクサンドルたち。彼らは沈黙を破った代償として社会や家族との軋轢とも戦うこととなる。
『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』レビュー
サスペンスからコメディ、ミュージカルまで幅広いジャンルを扱うフランソワ・オゾンとしては、初めて現実の事件を題材とした作品となる。
当初はドキュメンタリーとして製作も視野に入れられていたのだが、実際にモデルとなった被害者たちに会った際に、すでに様々なメディアでドキュメンタリー化されていたことで、彼らがオゾンに求めていたものは劇映画であり、劇映画にすることでもっと多くの層に届けたいという想いを受け継いで実話ベースのフィクションにすることを決意したという経緯によるもの。
正に現在も裁判・審理が進行形の「プレナ事件」を題材とした映画ではあるが、3タイプの被害者の視点で描かれる。
全体像として、告訴劇、法廷劇、プレナ神父への攻撃といった部分よりも、被害者である人々、特にアレクサンドル、フランソワ、エマニュエルの立場からの視点で、全く異なる身体、精神、人間性への影響というのを描くことで、題材となるのは、「プレナ事件」ではあるのだが、そこに限定的に留まる話ではなく、いかに幼少期に受けた性的虐待がその後の人間の人生にとどれだけの傷跡を残すのかという、性犯罪被害者全体が抱える問題を具現化したとても意義のある作品であることとは間違いなく、フィクションとはされていても、モデルになった人物はいて、その体験をそのまま反映されていることも考えると、その中で描かれる表現やキャラクター達の苦悩は、観ている側にも何度も突き刺さるのだが、目を背けてはいけない現実がそこにはあるのだ。
描かれる被害者の視点は、あくまで3タイプではあるが、彼らが全く異なった影響を受けているように、被害者の人数それぞれに抱える問題は全く違うということも暗示している。
また、あくまで「時効」だとか、過去の私は「心の病気」だったなどという、プレナ神父の責任転換するようで反省しているのか、していないのか…腑に落ちない態度や教会側の被害者よりも地位や立場を考えた対応の数々からは、ペドフィル(小児性愛者)に対しての社会における、対応や罰則、社会的制裁が甘いとしか思えないほどのとらえ方への問題定義もされていて、被害者の立場と社会が事件をどう扱うかということを絶妙なバランスで描かれているのだ。
この映画を製作したこと、興業的にもヒットしたことで多くの人々の心に現実の恐ろしさや厳しさ、被害者協会の人々がいかに心に傷を抱えながら戦ってきたのかということを幅広い層に伝えるということに成功したことによって、映画そのものが、被害者たちの精神的支えとなり、今後も心の支えと戦うことへの勇気を与え続ける作品となったことは、間違いなくフランソワ・オゾンの功績であり、映画が社会を動かす存在でもあること証明したと言ってもいいだろう。
神に仕える身の人間が、性的な事件を起こした事実を解明していくというテイストの作品は、近年いくつか製作されており、代表的なところでいうと2015年の『スポットライト 世紀のスクープ』がある。
今作もフランス版『スポットライト 世紀のスクープ』にしたいと考えていた部分もあり、被害者協会側それを望んでいたため、いくらかオマージュ的な部分もあったりするし、警察署のシーンでは、海外版ポスターが貼ってあったりもする。
点数 85点
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