作品情報
14歳の少年は父のいない家族の中で重要な働き手。母の希望で農地を借りて耕すことになるが、地中から人骨が見つかり家族は翻弄されていく。ドキュンタリー作家ホセイン・テヘラニ監督渾身の劇映画デビュー作!!
『世界、北半球』レビュー
14歳の少年アフマドは、父親と死別しているが母と姉の農作業と、自身でハトを売るなどして、裕福とは決して言えないまでも最低限の生活はできている状況であった。母も農地を借りて、ようやく前に進めると思った矢先、その土地から人骨が発見されてしまう。
イランでは、戦争の負の遺産として、銃弾や人骨といった「戦争」を連想させるものが、その土地から発見された場合、不発弾や地雷なども埋められている可能性があるため、政府によって土地が抑えられてしまう。それが家の庭であれば家こど囲われ、住人は退去を求められる。
これは日本など他の国でも同じかもしれないが、イランでは見つかる確率が多いため、日常的にそういったことが起こり得るということだ。
そんな状況のイランで、人骨を見つけたとなると、ようやくの前進の兆しとしての農地が隔離され、収入源を絶たれてしまい、生活が困難になってしまう。また、店が隔離され生活ができないと家を訪ねてくる知人の姿も描かれることで隔離するだけ隔離して、生活の保障は全くないイランの雑なお役所仕事も透けて見える。
結婚ができる歳になったアフマドの姉ハディージェの元に、たびたび従兄のネマドが求婚してくるものの、本人があまり乗り気ではないことを母も感じているのと、できるとは言っても若すぎることもあるし、娘を無理に結婚させるほどの経済状況でもなかったため、母もハトゥーンの意志も尊重することができる状況であった。
自分の意見と娘の人権を尊重する様子から、割とリベラルな考え方の母であるようにも感じられた。だからこそ農地が隔離されるわけにはいかず、母は見つかってないことにして、アフマドにも口外しないように釘を刺す。
しかし、今作は母の視点ではなく、アフマドの視点から描かれるということに大きな意味がある。
まだ大人たちがおかれている、そういった事情を感じとれず、埋もれていた人骨を遺族の元に帰してあげたいというストレートで純粋な感情が強い、しかも同級生が父親の遺体が見つからないまま、お墓も建てられない状況ということを知って、「もしかしら、この人骨は同級生の父親のものかもしれない」とも思い悩む。
母や姉を裏切れないという思いと、自身もハトを売る大変さを知っていることもあって、子供なりに感じている現実社会の厳しさを自身のモラルを天秤にかけて思い悩むアフマドの姿を通して、「人」として何が正しいことを考えさせられる作品である。
今作は、これまでに30本を超えるドキュメンタリーを制作してきたホセイン・テヘラニ監督の初長編劇映画でもあることもあって、劇映画ではあるものの、社会問題を切り取ったテイストも納得ができる。
そして、それをより強く感じさせるのは、アフマド役のレザ・ショハニの目力である。常に不貞腐れたような表情がとにかく印象的である。
点数 85
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