作品情報
自身が生まれ育ったマルセイユ周辺を舞台に、労働者階級や移民など社会的に弱い立場の人々の人生を温かな眼差しで見つめ続け、〈フランスのケン・ローチ〉と称えられるロベール・ゲディギャン監督。本国で半年以上のロングラン上映を成し遂げた大ヒット作『マルセイユの恋』や『幼なじみ』『キリマンジャロの雪』などで高く評価され、ベルリン、ヴェネチアや、審査員も務めたカンヌ国際映画祭の常連でもある名匠が、映画人生40年の集大成となる傑作を完成させた。空と海を一望できる美しい入り江沿いにあり、かつては別荘地として賑わったが、今ではすっかり寂れた町で、過去にとらわれて絆を見失い、明日へと踏み出せない家族が描かれる。だが、彼らが〈人生を変える新しい出会い〉を受け入れたことで、再び未来が輝き始める。こんな時代だからこそ、人と人の繋がりが何よりも大切だと、忘れられないラストシーンが教えてくれる感動作。今、世界が忘れた優しさが、ここにある。
『海辺の家族たち』レビュー
パリで活躍する女優アンジェルが20年振りに戻ってきて、2人の兄たちと再会するが目的は単なる里帰りではなく、父が倒れたことによるもの。
父の様子からも、もう長くはないだろうと、遺産や今後のことについて話す一方、アンジェルには、かつて子供がいたが父と兄たちの不注意で海で溺れて死んでしまったこともあって、関係が修復されないまま長い期間が過ぎてしまっている状況で心を閉ざしている。
ここまでなら、典型的な人間ドラマといったところだが、さすがフランスのケン・ローチといわれるロベール・ゲディギャンだけあって、単なる家族内々のドラマには収まっておらず、マルセイユ郊外が抱えている社会問題も浮き彫りにしていく。
かつてはリゾート地で、別荘がたくさん建っているが、どこも人がいない状態のマルセイユ郊外を舞台としていて、いくら美しい景色が広がり、魚介類もおいしいといっても、住むには不便で空洞化がかなり進んでいる。
今作が制作された2016年頃というのは、テロリストが難民に偽装しているという噂も流れていたため、もともと難民の多いフランスでは、警察や軍隊が常に目を光らせていて、特にマルセイユは軍事基地もあることから、軍隊が頻繁に見周りしている状況で今作にも軍隊が見回りにくるシーンが当たり前のようにあることからも、観光客や別荘をもつ富裕層も来るのを控えてしまっている状況にあり、観光業を売りにしている地域にとっては、経済的にも厳しかった。
その煽りを受けて、あるご近所さんは…
これはマルセイユに限られたことではなく、観光客が主な収入源となっている民宿のような場所も同じであって、コロナ禍の今では、ただでさえ厳しい経済環境の観光地はどうなってしまうのだろうか…
今作の監督であるロベール・ゲディギャンは、自身がマルセイユ郊外で育っていて、自分の経験や想いといったものが投影されているため、舞台もマルセイユの場合が多いという特徴もあるが、もうひとつの特徴としては、同じ俳優を何度も起用するという点だ。2019年の新作『Gloria Mundi』でもマルセイユを舞台に、同じ俳優を多数起用している。
劇中で兄妹の過去の映像があるが、これはCGやそっくりさんではなく、1986年の『Ki lo sa?』(日本未公開)の中の映像を使用している。同じ俳優を起用しているからこその特権というべきだろうか、過去作のシーンがあたかもアーカイブ映像のように使用できる利点も表現としては武器のひとつだ。ちなみにアンジェル役のアリアンヌ・アスカリッドは監督の奥さんでもある。
父も先が長くない。さびれた町に、時間の止まった感情、セカンドライフに生きる希望が見えてこないといった問題を抱えた兄妹たちの物語を描いていながらも、所々にそれでも生きる希望の光が見えてくる。
それはアンジェロとは母親ほどに年の離れた青年からの猛アプローチだったり、過去のことばかりにしがみついていたジョゼフの前向きな決断だったりと、色々あるが、一番特徴的であったのが、難民の子供たちの存在だ。
終わりゆく命がある中で、子供たちの存在そのものが未来の象徴だったりもするし、受け入れた結果がどうなるかは分からないが、難民という外からきた存在を新たな光として捉えることもできるだ。
残念ながらロベール・ゲディギャンは、フランスでは巨匠レベルの監督でありながら、日本ではほとんどの作品が未公開となっている。上映は無理かもしれないが、この際にソフト化ぐらいはしてもらいたいところだ。
CREDIT
監督・脚本:ロベール・ゲディギャン
出演:アリアンヌ・アスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、ジャック・ブーデ、アナイス・ドゥムースティエ、ロバンソン・ステヴナン
2016年|フランス|フランス語|カラー|ビスタ|DCP|5.1ch|107分|原題:La Villa|英題:The House by the Sea|字幕翻訳:宮坂愛
提供:木下グループ 配給:キノシネマ レーティング:G © AGAT FILMS & CIE – France 3 CINEMA – 2016
5月14日(金) キノシネマほか全国順次公開
点数 80
- ネットもSNSも遮断されたインドの全寮制女子高を舞台に、少女たちは”自分”とは何者なのかに葛藤する!!『女子高生は泣かない』
- 第96回アカデミー賞:映画評論家バフィー吉川の最終受賞予想!事実上『オッペンハイマー』のひとり勝ち状態か?!
- インド音楽界の歴史が動いた!22年ぶりのメジャーガールズユニット”W.i.S.H.”誕生!K-POPに次ぐ世界市場を狙う!!
- この映画語らせて!ズバッと評論!!『マダム・ウェブ』始まらないドラマのプロローグを観ているような感覚になるが、若手女優たちが唯一の救い!!
- 【ちょこっとレビュー】地域復興ムービーとして応援したい気持ちを裏切るほど中途半端な主人公像『レディ加賀』
コメントを書く