作品情報
『キャプテン・アメリカ』『ブロンズ』のセバスチャン・スタンが主演を務め、ベトナム戦争で多くの兵士の命を救った実在の米空軍兵ウィリアム・H・ピッツェンバーガーの知られざる真実を描いた社会派ドラマ。1999年、アメリカ。空軍省のハフマンは、30年以上も請願されてきたある兵士の名誉勲章授与について調査を開始する。1966年、空軍落下傘救助隊のピッツェンバーガーはベトナムで敵の奇襲を受けて孤立した陸軍中隊の救助に向かうが、激戦のためヘリが降下できず、その身ひとつで地上へ降りて救出活動にあたる。しかし彼自身は銃弾に倒れ、帰らぬ人となる。ハフマンは当時ピッツェンバーガーに救助された退役軍人たちから証言を集めるうちに、彼の名誉勲章授与を阻み続けた驚くべき陰謀の存在を知る。共演にはクリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソンら豪華キャストが集結。名優ピーター・フォンダの遺作となった。監督・脚本は『ファントム 開戦前夜』『ロンリーハート』のトッド・ロビンソン。
『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実レビュー
ウィリアム・H・ピッツェンバーガーとは
ベトナム戦争において、空軍の落下傘救助隊の医療兵として60人以上の兵士たちを救った。
1966年4月11日の救出作戦。脱出するチャンスがあったにも関わらず、少しでも多くの兵士の命を救うために、戦場に留まったことで弾丸を浴びて戦士してしまう。
多くの命を救った英雄であるにも関わらず、義務を超えた個人の勇敢な行為に対して与えられる「名誉勲章」の申請が却下されてしまう。
批評
戦争を経験してきた人類。戦争は今もどこかで起きている。
その中で選択に迫られ、数名の犠牲によって、多くの命が助かったという事実があったとしても、名誉や勲章を与えられるのは、犠牲になった者よりも残され、生きた者たちであるということ。
無事に生還したこと自体も凄いことであって、その者たちが勲章を与えられるのが悪いわけではないが、命を落とした者の功績というのは、命と共に失われてしまうという事実は悲しすぎる。
そんな犠牲があったからこそ、生き延びた者から、その子、またその子へと命が枝分かれしていき、命の連鎖が続いているわけで、もし戦場で全滅していたら、その後、誕生するはずの全ての命が存在していないということでもあるのだ。
現場にいた者と勲章を与える者の間に情報格差や温度差が生じていることが原因だろうとは思うが、実際に命を救われた者たちの言葉は届かないのだろうか。
何気なく今を生きている私たちも、災害や戦争で祖先が亡くなっていたとしたら、存在すらしていなかったのかもしれないのだ。
その命の連鎖が途絶えるのを食い止めた本人が名誉勲章を与えられないというのは、どうなのだろうか。
今作はウィリアム・ピッツェンバーガーの活躍を戦場で実際に目で観て、助けられた男たちが一丸となって「名誉勲章」を申請した実話をベースとしている。
勲章というのは、単に形あるものではなく、生きていた証でもあるのだ。
犠牲になった者たちの証を胸に刻むことで、自分が生きていることに大きな意味を見出せる。
自己満足に聞こえるかもしれないが、それも残されていた者たちが生きていく上では必要にも思えるのだ。
アクション娯楽として扱うには、使われ過ぎたということもあるのだろうが、近年の戦争映画は、戦争の中の数日間、ある作戦の実態などといった切り取り方をした、限定的なアプローチ作品が多くなってきたような感じがする。
大味なアクション映画として扱われる戦争は、ひとつの舞台設定でしかなく、その中で起きる出来事は、作品としてのアクセントとしての役割でしかない。
映画では数分の出来事でしかないが、実際には地獄ような時間が続いていたという事実を知り、戦争の悲惨さを改めて感じると同時に、戻すことのできない過ちの中で同じ過ちを繰り返さないようにしなければならない。
戦争を過去のもの、シューティングゲーム的に錯覚してしまいがちの現代人にとって、改めて戦争の意味を考えるうえでも、戦争映画というジャンルは必要なのだろう。
惜しくもピーター・フォンダの遺作となってしまったのだが、渋いシルバー俳優たちが他にも多く出演していて、ひとりひとりに歴史があるようで今作のテーマ性にうってつけの俳優ばかりだ。
『キング・オブ・シーヴス』『43年後のアイ・ラヴ・ユー』のように、自虐的ネタとして「老い」を利用した作品が多くなる中で、やはり映画ファンとして観たい俳優の姿は、いつまで経っても、こういった堂々とした渋い演技をしている姿ではないだろうか。
点数 80
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