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この映画語らせて!ズバッと評論!!『サンドラの小さな家』突拍子もない発想から生まれた突拍子もない絆の物語!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『サンドラの小さな家』突拍子もない発想から生まれた突拍子もない絆の物語!!

作品情報

アイルランド・ダブリンを舞台に、住居を失った若い母親と子どもたちが、周囲の人々と助け合いながら自分たちの手で小さな家を建てる姿を描いたヒューマンドラマ。『マンマ・ミーア!』『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』のフィリダ・ロイド監督がメガホンをとり、舞台を中心に活躍する女優で『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』などに小さな役でも出演していたクレア・ダンが脚本・主演を務めた。2人の幼い娘を連れて虐待夫のもとから逃げ出したサンドラ。しかし公営住宅は長い順番待ちで、ホテルでの仮住まい生活から抜け出せない。そんなある日、サンドラは娘との会話から、小さな家を自分で建てるアイデアを思いつく。インターネットでセルフビルドの設計図を探し出し、サンドラが清掃人として働いている家のペギーや建設業者エイドの協力を得て建設に取り掛かるが、執念深い元夫に妨害されてしまう。共演に『つぐない』のハリエット・ウォルター、テレビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のコンリース・ヒルなど。

『サンドラの小さな家』レビュー

夫のDVから2人の子供を連れて逃げたサンドラの苦悩と経済的不安、突拍子もない自宅建設DIYを描いた作品。

DV夫から逃げるという、物語の導入の仕方としては『ニューヨーク 親切なロシア料理店』に近いものを感じるのだが、今作の方が、どうしても劣悪な環境にいなくてはならないという、突発性的な部分としては、きちんと描かれている。

役所の対応も、あくまで事務的だったり、とりあえずの処置で環境無視の対応という部分の、家庭環境に問題を抱えた家族のケアが上手く機能していない部分は、日本の行政などにも通じる部分があって、どこの国も似たようなものだと感じないではいられない。

残念なのは、主人公のサンドラのキャラクター性があまり見えてこい部分だ。結婚後のサンドラについては劇中でも描かれる部分はあるものの、ひとりの人間としてどういう人生をおくってきたのかが不透明に感じてしまう。

『ニューヨーク 親切なロシア料理店』の主人公クララの場合は、行動としては、かなり間抜けだったりするものの、その間抜けさの理由がある程度、提示されていたし、夫が暴力を振るうようになった理由も感覚的に描かれていた。

しかし、今作は全体的に漠然としているし、いくら動画サイトに感化されたされたとはいっても、机や椅子を作るのとはわけが違って、DIYをしたこともないド素人が家を建てようと思い立つ不自然さは残ってしまうが、とりあえず住めればいいというのであれば「自分で建てた家でもいいんでしょうね!!」という行政への皮肉としては納得できる。

全体的に物語の核心的部分への誘導しては、かなり力業感がしないではないのだが、その中で培われる人々の絆は、なかなかベタな演出ではあるし、『ニューヨーク 親切なロシア料理店』と同様に、見返りを求めない無償の愛、人と人との繋がりをひしひしと感じさせ、人間も捨てたものではないと気づかせてくれる。

今作において、「家」というのは、あくまで箱でしかなく、その過程で得たものの方が実は尊く大切なものという提示をしてみせてはいるのだが、それであれば、自ら暴力的衝動のセラピーを受けるとまで申し出た夫側にももう少し救いを持たせてあげてもよかったのではないだろうか。

サンドラ自身も「昔の夫が恋しい」と言っていただけに、そのチャンスは実はあったのではないかとも思ってしまった。

様々な環境下において、思わぬところで人と人の絆が芽生える一方で、見逃してしまうことや上手く交じり合わない思いが発生してしまうのも、また人ということ。

細部に気になる所はあるものの、ハートフルな人間ドラマであることは間違いない作品であったし、チラシにはケン・ローチのようなテイストとあったけれども、何度も例に出して申し訳ないが 『ニューヨーク 親切なロシア料理店』に通じる部分の多い作品だったといえるだろう。

点数 82

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