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【ちょこっとレビュー】目的がわからない家族旅行に込められた”自由”への想い『君は行く先を知らない』

【ちょこっとレビュー】目的がわからない家族旅行に込められた”自由”への想い『君は行く先を知らない』

【ちょこっとレビュー】

海外映画祭でも高い評価を受けた『白い風船』(1995)や『人生タクシー』(2015)といった作品で知られる、イラン映画界の巨匠ジャファル・パナヒ監督の長男バナー・パナヒの長編監督デビュー作。

突然始まる家族旅。イランの国境近くをひたすら車で走る家族。ただ、それが楽しい家族旅行でないことだけはわかるものの、冒頭では一切情報が提示されず、目的が何かがわからない。

しかし、旅を続けるうちに、断片的ではあるがイランという国特有の問題を抱えた家族のバックボーンが会話や家族間の温度差によって少しずつ明らかとなっていくが、それも明確にはわからないため、会話に集中して拾っていくしかない。

一方、幼い次男は、めったにない家族旅行ということもあって、大はしゃぎしている。

ロードムービーというのは前提として、今作に車内のシーンが多い理由としては、車内では自由に振舞ってもイラン政府に通報されないという事情が背景にある。狭い車内には自由があるのに、広大な荒野が広がる外には自由がないという大きな皮肉でもある。

子どもたちは、やがて成長し、大人になると、嫌でもイラン社会に自由がないという現実を知ることになる。長男はすでにそれを感じているし、次男は逆にそんなイランの現実を知らないからこそ、知らないうちに、違った未来を歩ませたい、つまり国境の周りをグルグルと回ることで、先にある世界を見せておきたいという家族の願いが込められた旅なのか、あるいは旅自体が”自由”へのメタファーなのかもしれない。

問題を抱えた家族が旅を通して、車内でのシュールな会話を通して打ち解けていくロードムービーでもあり、その点はイラン版『リトル・ミス・サンシャイン』といえるのかも。

【ストーリー】

イランの荒野を車で移動する家族の旅。イランの国境近くを車で旅している4人家族と1匹の犬。幼い次男が大はしゃぎする中、怪我人の父は悪態をつき、母は昔の流行歌を口ずさみ、長男は無言でハンドルを握っている。車はどこへ向かうのか? 何が一家を待ち受けているのか? 大人たちが口に出さないこの旅の目的が明らかになる時、私たちは深い感動に包まれる——。

【作品情報】

監督・脚本:パナー・パナヒ

製作:パナー・パナヒ、ジャファル・パナヒ

出演:モハマド・ハッサン・マージュニ、パンテア・パナヒハ、ヤラン・サルラク、アミン・シミアルほか

2021 年|イラン|ペルシャ語|1.85:1|5.1ch|カラー|93 分|英題:HIT THE ROAD

日本語字幕:大西公子|字幕監修:ショーレ・ゴルパリアン

後援:イラン・イスラム共和国大使館イラン文化センター

提供・配給:フラッグ

(C)JP Film Production, 2021

公式サイト:https://www.flag-pictures.co.jp/hittheroad-movie

8月25日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町にて公開

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