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【ちょこっとレビュー】戦後、激変した価値観と概念の間で葛藤する主人公は”ある猟奇殺人事件”を通して何を思うのか……『ヒンターラント』

【ちょこっとレビュー】戦後、激変した価値観と概念の間で葛藤する主人公は”ある猟奇殺人事件”を通して何を思うのか……『ヒンターラント』

【ちょこっとレビュー】

全編ブルーバックで撮影された作品として知られている本作ではあるが、ただ合成をしているというわけではなく、背景が独特の構図で所々歪んでいたり、極端に傾斜していたり、トリックアートようだったりと、全体的にノワールテイストでありながらも、グラフィクノベルのような世界観が広がっているのだが、それは主人公ペーターの不安や困惑、怒り、悲しみといった精神状態を表しているのだ。

戦争というものを通して価値観を培ってきたペーターは、いわゆる有害な男らしさに満ちた人物像であり、国のために闘い敵を倒す(人間を殺す)ことこそが自分の使命であると信じていた。

ペーターを待ってくれていると信じていた妻と子は、すでに帰らぬ夫に見切りをつけて家を出ていた。周りも英雄どころか、時代錯誤の遺物のように扱われる。

さらに追い打ちをかけるように、戦後、劇的に変化する世界の新たな価値観と概念がペーターを苦しめるなかで、自分はどう生きるべきか、そもそも生きているべきなのか……。

そこに、かつての戦友たちが次々に殺されていく連続猟奇殺人事件が発生!

ペーターはもともと刑事であったこともあり、自ら捜査をすることを決意するが、それがペーターを更なる地獄へ向かわせることに。

事件を通して出会ったケルナー博士は、戦前までは女性がなれる職業ではなかった法医学者。ペーターの妻も過去よりも未来を見ていたように、女性の在り方の変化にも困惑を隠せないペーターではあるが、ケルナーとの会話を通して、妻の心情も理解しようとしていくが、同時に事件の真相に近づくことで衝撃的真実がペーターを苦しめる。

事件解決の先にあるのは、ペーターにとって、終わらない地獄か、それとも心の安住の地となるのか……。

【ストーリー】

第一次世界大戦終結後、長く苦しいロシアでの捕虜収容所生活から開放され、ようやく故郷にたどり着いた元刑事ペーター(ムラタン・ムスル)とその戦友たち。しかし帰国した彼らを待ち受けていたのは変わり果てた祖国だった。敗戦国となり皇帝は国外逃亡。愛する国と家族を守るために戦った彼ら兵士たちに対するねぎらいの言葉すらない。そして帰宅した家に愛する家族の姿はなく、行き場をなくすペーター。そんな最中、河原で奇妙な遺体が発見される。同じ帰還兵であろうことを告げていた。ペーターは自身の心の闇と向き合うために、自らの手で真相を暴くべくボロボロの心身に鞭打って動き始めるのだが……。

【作品情報】

〇作品情報

監督:ステファン・ルツォヴィツキー

脚本:ロバート・ブッフシュヴェンター、ハンノ・ピンター、ステファン・ルツォヴィツキー

出演:ムラタン・ムスル、リヴ・リサ・フリース、マックス・フォン・デア・グレーベン、マーク・リンパッハ、マルガレーテ・ティーゼル、アーロン・フリエスほか

2021 年/オーストリア・ルクセンブルク/ドイツ語/99 分/シネマスコープ5.1ch/字幕翻訳:吉川美奈子/原題:HINTERLAND/PG12

配給:クロックワークス

ⓒFreibeuterFilm / Amour Fou Luxembourg 2021

公式サイト: https://klockworx-v.com/hinterland/

9 月 8 日(金) 新宿武蔵野館 ほか 全国ロードショー

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