日本在住の映像作家が作ったガーナ映画で、扱うのはヒトラー、東條英機、カンフーと何やら情報が渋滞状態のトンデモ作品『アフリカン・カンフー・ナチス』
知る人ぞ知る、ネットで話題となったカルト映画であるが、6月12日からまさかの劇場公開されることとなった。
監督を務め、ヒトラー役も熱演している『ジョジョ・ラビット』のタイカ・ワイティティと何気に同じスタンスのセバスチャン・スタインだが、彼のヒトラーへの想いというのは、かなり筋金入りなのだ。
学生時代に歴史の授業でアドルフ・ヒトラーという存在を知って以来、尊敬ではなく、お笑いのネタとしてリスペクトするようになっていったセバスチャンだが、ドイツにとって今やナチスという存在は過去の汚点でしかなく、ナチスに関連するものは、徹底的に抑え込んできた。ナチス式敬礼をすると、罰金や懲役が科せられる場合もあるほど
セバスチャンの父はドイツ人であるが、母は強制労働をさせられるためにドイツに連行されてきたウクライナ人とロシア人の間に生まれ、各国を亡命し続ける両親の代わりに母を育てたのは、強制収容所で生き残ったユダヤ人という、ナチスというものには、なかなかデリケートな家系。
それを象徴するエピソードとして、セバスチャンがドイツの軍医クラウス・マーチンに由来する靴ブランド、ドクター・マーチンを履いていたことで、母が「息子がネオナチになってしまった!」と取り乱したほど。
セバスチャンはそんな家族も不安もよそに、ヒトラーのマネで笑いをとる、こじれた10代の生活を送るなかで、1999年には「Horst Hitler and the Swastikas」というパンクパンドを結成するまでにエスカレートしていき、セバスチャンの過激なアート活動は、家族にナチス被害者をもつような歴史的背景のある人や逆にヒトラーをバカにしていることもあって、ネオナチからも目をつけられていて、常に危険が伴うような活動を続けていた。
右翼青年集団に襲撃されたこともあるとか…
一見、ヒトラーをネタにしているだけの変人かと思うかもしれないが、セバスチャンがヒトラーを演じ、ネタにし続けることは、ナチスという存在、ヒトラーという存在がいかにバカバカしい発想をもった人物であったかを体現しているのである。仮に日本のお笑い芸人が戦犯者などをネタにしたら大批判を受ける風潮にあるかもしれないが、実は「もはや笑うしかない歴史」というコメディアンのスタイルのひとつであるのだ
なかなかファンキーな発言の多い監督ということもあって、本当にそういった意味を持った行動なのかは正直疑問ではあるが、彼の妄想が映画という、ひとつのアートとして完成したことに関しては、称賛に値するのではないだろうか。
監督:セバスチャン・スタイン / ニンジャマン
脚本:セバスチャン・スタイン
製作:プロデューサーマン
撮影:パトリック・オウス
編集:セバスチャン・スタイン / ニンジャマン
美術:フレデリック・ボアテング
サードカメラ:黒川康平“クロフィン”
メイクアップ:FRED
キャスティング:プロデューサーマン、ニンジャマン
出演:エリーシャ・オキエレ / マルスエル・ホッペ / 秋元義人 / ンケチ・チネドゥ / アンド
リュース・メンサー / アマンダ・アチアー / ウォーカー・ベントル・ボアテング / クワク・ア
ドゥ / セバスチャン・スタイン
2020年 / ガーナ、ドイツ、日本合作 / 英語、ドイツ語、日本語、トウィ語 / 84分 / ビスタ / カラー
原題:African Kung-Fu Nazis
日本語字幕:Kurofin Blackchang / 配給:トランスフォーマー
公式HP:transformer.co.jp/m/akfn
Twitter:@Ghanarians
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6 月 12 日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国公開
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