作品情報
ロサンゼルス。 攻撃的なユーモアセンスをもったスタンダップ・コメディアンのヘンリーと、国際的に有名なオペラ歌手のアン。“美女と野人”とはやされる程にかけ離れた二人が恋に落ち、やがて世間から注目されるようになる。だが二人の間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれたことで、彼らの人生は狂い始める。
『モービウス』レビュー
今作は『ロバと王女』『シェルブールの雨傘』といった作品を手掛けたジャック・ドゥミへのオマージュが多く含まれており、ミュージカルというジャンルに属しているものの、ミュージカルとして観ないことが要求される作品という、かなり複雑な構造のものとなっている。
純粋なミュージカルとして楽しめないことは、構造の他に、キャストに問題がある。
もちろんマリオン・コティヤールの歌唱力は、『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』『NINE』などでもお墨付きではあるが、アダム・ドライバーや『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』のハワード役でお馴染みサイモン・ヘルバーグといった、絶妙に微妙な歌唱力の俳優が揃っているため、正直、音楽的な楽しみ方はできない作品だ。
キャストがもう少し違っていれば、大傑作になっていたと思うだけに、それが残念な一方で、このミュージカル体験としての居心地の悪さも含めて、足場の不安定さそのものが今作の狙いだと言われれば、理解はできる。
冒頭から、これからエンターテイメント・ショーがはじまる、舞台がはじまる……といったように、幕が開く演出。これによって観客は、単なる演出なのか、もしくはフィクションとみせかけた、『アメリカン・ユートピア』のようなドキュメンタリーを観ているのか、これから始まるフィクションとリアルの境界線がわからなくなってしまう。
その境界線が霞み続ける世界観の中で、アダム・ドライバー演じる、コメディアンのヘンリーもリアルとフィクションの区別ができなくなっていく、二重三重どころか四重構造の世界感は、観客の視点を迷子にさせる。
それが快感に感じられたとしたら、最高に今作を楽しめるだろうが、逆に極端にそこが理解できない、受け入れられないという人も同じく多いと感じられるだけに、極端に意見の分かれる作品であることは間違いない。
点数 80



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