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この映画語らせて!ズバッと評論!!『ハッピー・オールド・イヤー』自分の過去が詰まった「物」を捨てる勇気と決断の先にあるものは…

この映画語らせて!ズバッと評論!!『ハッピー・オールド・イヤー』自分の過去が詰まった「物」を捨てる勇気と決断の先にあるものは…

作品情報

『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の製作スタジオ「GDH559」と主演女優チュティモン・ジョンジャルーンスックジンが再タッグを組んだタイ映画。デザイナーのジーンはスウェーデンに留学し、ミニマルなライフスタイルを学んで帰国する。かつて父が営んでいた音楽教室兼自宅の小さなビルで、出ていった父を忘れられない母や自作の服をネット販売する兄と暮らす彼女は、ビルを改装してデザイン事務所にしようと思いつき、モノに溢れた家の断捨離を開始。洋服、レコード、楽器、写真など友達から借りたままだったモノを返してまわる中で、元恋人から借りたカメラも小包にして送るが、受取拒否され返ってきてしまう。整理されていく部屋に反比例して様々な思い出が溢れ出し、ジーンの心は乱れていき……。監督は『マリー・イズ・ハッピー』などで国際的に注目を集める新鋭ナワポン・タムロンラタナリット。

『ハッピー・オールド・イヤー』レビュー

「世界で最も影響力のある100人」に選出されたら日本人こんまりこと近藤麻理恵。ミリオンセラー書籍に加え、彼女の「おかたづけ術」はNetflixで番組化もされたことで、彼女の世界的知名度は圧倒的となり、とうとう映画業界にまで影響をもたらした。

今作の中でも、「こんまり」の書籍や番組が登場し、新たな「おかたづけ」という概念が生まれていることに気づかされる。先日評した『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』の中でも、影響を受けているシーンがあるほどだ。

実家を自分のデザイン事務所にしようと、ごちゃごちゃになった家を片付けはじめ、物のほとんどない空間にリフォームしてしまおうと計画するのだが、家には、自分の他に兄と母が住んでいるという状況で、独断で物を捨てだす主人公の自分勝手さには、なかなか共感しづらい部分がある。

片付けようとすることはいいし、それによって、捨てるべき思い出なのか、それとも残すべきなのかと考え、過去の傷や放置してあったものも清算していこうとするのも、主人公の新たなステージへの成長過程として、あくありがちなプロットであり、ドラマ性を演出するのにも機能しているわけだが、あまりにも自分勝手すぎるような気がしてならない。

母は、家を出ていった父の思い出として、誰も弾かないピアノを置きっぱなしではあるが、それは母にとっては「良き日の思い出」なのだが、それをたとえ母の今後のためとはいっても、他人の心に入り過ぎではないだろうか。

これがはじめから、家族が前に進むためという理由であれば、納得できる展開かもしれないが、そもそもは実家を自分の事務所にしたいという、自分勝手なものだから、なかなか共感できない。

過去にどう見切りをつけるかというのは、人それぞれであって、物が全くない空間の方が仕事がはかどるという人もいれば、物が散らかっていたほうが仕事がやりやすいという人もいるわけだ。

主人公の目線や感情による行動には、かなり疑問が残るものの、主人公もそれが良いことか悪いことかが確信がもてないまま、前に進んでいるようで、前に進んでいないような違和感が残るラストは、狙いであったようにも思える。

人間は過去にしてきたことに対して「あれでよかったのか」とか「こうしていればよかった」とか、後悔するものである。今までやってきたことに確信がもてることなんてないのかもしれない。だったら、思い切ってやってしまうというのもひとつの手ではある。

過去があるから今があるわけで、過去を捨ててしまうことは、自分を否定してしまうことではないだろうか。デザイナーとしての感性を育ててくれたのも、今までの人生経験のように思える。

捨てるか残すかという回答が極端過ぎる必要はあるのだろうか...今作を観た人は、共感させられる部分はあっても、全てに共感できる人というのも少ないのではないだろうか。

切り口は違うものの、『100日間のシンプルライフ』でも物がないことによって、気づくものというのが描かれたように、現実社会に物が溢れたことによって、1周回って「物」というものに対しての考え方、概念というものを改めて考える時代になってきたということだろうか。

点数 80

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