作品情報
魔法と幻想の国オズにある<シズ大学>で出会ったふたり― 誰よりも優しく聡明でありながら家族や周囲から疎まれ孤独なエルファバと、誰よりも愛され特別であることを望むみんなの人気者グリンダは、大学の寮で偶然ルームメイトに。見た目も性格も、そして魔法の才能もまるで異なるふたりは反発し合うが、互いの本当の姿を知っていくにつれかけがえのない友情を築いていく。ある日、誰もが憧れる偉大なオズの魔法使いに特別な力を見出されたエルファバは、グリンダとともに彼が司るエメラルドシティへ旅立ち、そこでオズに隠され続けていた“ある秘密”を知る。それは、世界を、そしてふたりの運命を永遠に変えてしまうものだった…。
『ウィキッド ふたりの魔女』レビュー

世界的に有名なミュージカル「ウィキッド」を、圧倒的なクオリティの映像と音楽で映画化した『ウィキッド ふたりの魔女』が3月7日から公開となった!先日の第97回アカデミー賞においても合計10部門にノミネートされ、美術賞と衣装デザイン賞の2部門を授賞した話題作だ!!
そもそも「ウィキッド」とは何かというと、シンデレラを義姉妹の視点から描いた「Confessions of an Ugly Stepsister」や、不思議の国のアリスの後日譚「アリスはどこへ行った?」など、おとぎ話を題材に、新たな視点から物事を描くのが得意な作家グレゴリー・マグワイアによって執筆された「ウィキッド: 誰も知らない、もう一つのオズの物語」を、ダニエル・スターン主演ドラマ「素晴らしき日々」を手掛けたドラマクリエイターであり、「Birds of Paradise」などの舞台作家としても知られるウィニー・ホルツマンがアレンジし、ディズニー映画『ノータルダムの鐘』(1996)や『魔法にかけられて』(2007)の作詞家ステファン・シュヴァルツが音楽を手掛けることで完成したミュージカル舞台が「ウィキッド」だ。ウィニーとステファンは、今作にカメオ出演もしている。
誰もが知るおとぎ話の新たな側面を描いているという点で、グレゴリーの作家性が強く反映されているのだが、ウィニーがそこに、より現代社会に通じるテーマを加えており、ファンタジーとしての枠から飛び出した社会派な作品といえるだろう。
「ウィキッド」は、2003年に初演を迎えると、すぐにブロードウェイを代表する作品となった。日本でも劇団四季によって日本キャスト版が定期的に上演されていることから、観たことがなかったとしても、幅広い世代に認知されている。とくに代表曲である「Defying Gravity」は、ミュージカルナンバーとしてはあまりにも有名で、多くのアーティストがカヴァーしている。ドラマ「glee/グリー」では、レイチェルとカートがこの曲を歌うとこで、互いの利点や弱点を探り合うというシーンで使用されており、シーズン1の9話と、記念すべき100話目においても印象的に使用されていただけではなく、舞台版のグリンダ役のクリステン・チェノウスとエルファバ役のイディナ・メンゼルも出演しており、何かと「ウィキッド」ネタの多い作品であった。ちなみに舞台作者同様にクリステンとイディナも映画版にカメオ出演している。
さて今作の何が社会派かというと、「オズ」シリーズでは、悪い魔女としてヴィラン扱いされている緑の肌のエルファバの視点から物語が展開される。これはルッキズムや人種問題のメタファー。簡単に言うと「見た目で人は判断できない」ということを描いているのだが、もうひとつ強調して描かれているテーマは、”情報操作社会”だ。
これはSNS社会である現代にも通じるテーマである。つまり誰が発信するかによって、物事の印象というのは、全く違うものになってしまうことを描いているのだ。一方でグリンダも金髪の白人女性という、男性優位主義の視点から見ると”無知”や”おバカ”という印象であったり、スクールカーストの上位的存在かと思いきや、友情を重んじる優しさを持っている。さらに言えば、王子フィエロにおいても、プレイボーイに見えて、実は内面を見ることができる人間性を持ち合わせている。
外見やメディアの作り出したイメージによって、「こうだっ!」と決めつけてしまう社会そのものに対してのメッセージが多く含めれていて、「ウィキッド」に登場するキャラクターたちは、良くも悪くも常に二面性を持っている。
音楽もテーマ性も、舞台版自体が高く評価されているだけに「ウィキッド」の映画化企画は、2010年代から、ずっと模索されてきた。一時期は舞台版と同じイディナが、『アナと雪の女王』(2013)のエルサ役で知名度も上がったこともあって、そのまま主演を務める企画が具体化しかけてもいたし、そのほかにも多くのミュージカル経験者が候補に挙がっていたのだが、本格的に動き始めたのは2021年になってからで、監督に抜擢されたジョン・M・チュウだった。
「ステップ・アップ」シリーズや、アメリカの人気アニメを映画化した『ジェム&ホログラムス』(2015)といった、テンポの良いティーン向け音楽映画を多く手掛けていることでも知られていたジョン。アメリカ映画でありながらオールアジア人キャストで話題となった『クレイジー・リッチ!』(2018)の功績によって一般的に知られるようになったが、ジョンが一番優れている点は”色彩感覚”である。同作の場合は、ミュージカルではなかったものの、その映像からはミュージカルを連想させるほどのセンスが光っていた。そして、満を持してというべきだろうか、ジョンのセンスとオリジナル舞台の世界観を融合させることで、舞台版では表現が難しかった圧倒的な奥行きを出すことに成功したのが『イン・ザ・ハイツ』(2021)だ。
舞台の本質はそのままに、そこな独自の色彩センスを加えて、全く新しい『イン・ザ・ハイツ』を作り出すことに成功。『ウィキッド ふたりの魔女』においてもそれが存分に発揮されており、もはやジョンがミュージカルを映画化することは天性だといえるし、アンドリュー・ロイド・ウェバーの名作「ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・テクニカラー・ドリームコート」を映画化企画の監督候補にあるのも納得できる。
監督だけではなく、出演者にも恵まれている。グリンダ役のシンシア・エリヴォといえば、舞台女優として有名で、「カラーパープル」では、共演のジェニファー・ハドソンと張り合えるほどの圧倒的歌唱力と演技でトニー賞を受賞している強者。
黒人奴隷を解放に導いたハリエット・タブマンの生涯を描いた『ハリエット』(2019)での印象も強い。同作は、ミュージカルではなかったものの、なぜかミュージカル感がにじみ出ていて、アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされた主題歌「Stand Up」も見事だった。さらにナショナル・ジオグラフィック製作によるアレサ・フランクリンの伝記ドラマ「ジーニアス:アレサ」において、アレサ・フランクリンを見事に演じており、アレサの名曲「Chain of Fools」のカヴァーはシングルカットされたほど。そしてDisney+映画『ピノキオ』(2022)ではブルー・フェアリーを演じ、その際に歌った「When You Wish Upon A Star」は、ほとんどの言語バージョンでシンシアの歌声がそのまま使用されている。
そんなシンシアだが、意外なことに、ミュージカル映画で主演を務めるのは、今作が初めて。それだけで観る価値があると思っているミュージカルファンは多いはずだが、実はグリンダ役のアリアナ・グランデも同じくミュージカル映画初主演となる。

アリアナといえば、「Break Free」がフリマアプリのCMソングに起用されていたり、来日コンサートも行われていたことから、2010年代を代表する音楽アーティストのひとりとして、日本でも知名度が高い。ところがアリアナは、ミュージカル俳優である。「13」やテレビ映画「ヘアスプレー ライブ!」などもそうだが、レギュラー出演したニコロデオンのドラマ「ビクトリアス」もミュージカル性の強い作品であった。
アリアナは、もともとミュージカル映画で主演をしたいという願いが強く、それはアリアナのファンであれば周知の事実で、今作においてもオーディションで役を手にしている。
同名ミュージカルをNetflixで映画化した『ザ・プロム』(2020)では、主人公のひとり、アリッサを演じることが予定されていたが、スケジュールの都合で実現しなかったのだから尚更だ。
ミュージカル映画で主演を務めることを本人たちも、ファンたちも想い続けてきたことが、ようやく実現されたのだから、付加価値の高い作品といえるだろうし、シンシアとアリアナによる「Defying Gravity」は、感動という言葉では表せないほどの感情にさせてくれる。ミュージカル史に残る名曲は、今作において、映画史にも残る名曲となったのだ。
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点数 94



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