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第38回東京国際映画祭作品レビュー:06:『アトロピア』

作品情報

監督/脚本:ヘイリー・ゲイツ

撮影監督:エリック・ K・ユエ

音響:ジョシュ・ビセット

美術:メーガン&アシュリー・フェントン

衣装:アンジェリーナ・ヴィト

作曲:ロバート・エイムズ

出演:アリア・ショウカット

カラム・ターナー

クロエ・セヴィニー

チャニング・テイタム

ジェーン・レヴィ

103分/カラー/英語/2025年/アメリカ

【ストーリー】

中東での戦争に派遣される米軍の兵士の訓練のために、中東の街並みを映画セットのように再現した砂漠の中の架空都市「アトロピア」。この架空都市で働くイラク系アメリカ人の女優、若い兵士、そして潜入したジャーナリストを主人公に、現実と訓練、仮想空間、そして隠された陰謀が入り混じるユニークな物語が展開する風刺ドラマ。

ブッシュ政権とは何だったのか、イラク戦争とは何だったのか……。そんな作品は、『バイス』(2018)や『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』、『30年後の同窓会』(共に2017)、そして日本でも2026年1月26日に公開される『ウォーフェア 戦地最前線』など、オバマ政権の第2期である2010年代中~後半頃から、様々なアプローチで制作されてきた。もちろん映画以外にもドラマやコミック、アニメ、バラエティなど、様々なメディアで風刺作品も多く制作されている。

さて今作は、「ツイン・ピークス:リミテッド・イベント・シリーズ」において、麻薬中毒の母親役を演じていたヘイリー・ゲイツの長編監督デビュー作品で、イラク戦争時に実在した戦場訓練施設”アトロピア”を舞台とした風刺劇である。

イラク戦争に限らず、戦争が起きたときには、こういった、簡単に言うと戦場版映画村のような施設が作られており、そこで実際に俳優たちが現地人の役を演じていたというドキュメンタリーはいくつかある。今作もそういったドキュメンタリーから刺激を受けて制作された作品の短編映画『Shako Mako』(2019)をヘイリー自ら監督を務めて、長編化したものなのだ。

その際に主演を務めた、シットコム「サーチ・パーティー」(U-NEXTで配信中)で知られるアリア・ショウカットが、今作でも主人公を続投しているほか、冒頭シーンはセルフリメイクとなっていた。

戦争とは何なのか……。とまで話を大きくしているわけではないが、少なくとも”イラク戦争とは何だったのか”を、ブラックコメディとして描いた作品であり、リアルもフェイクも、実はどちらも「ロールプレイじゃないかっ!!」という着地点であることは、何となくわかってくる。

ただし社会派というよりは、基本はコメディが主体。コメディアンも多く出演していることから、下ネタやドタバタ劇がメインとなっているし、片腕のモデル兼女優として知られるシャホリー・エアーズやパラリンピックの陸上選手ブレイク・リーパーを負傷者オーディションするブラックなネタもあったりするが、本人が了承してやっているからいいのだろう。ほかにも義足の俳優が登場するし、例えば『ディックス!! ザ・ミュージカル』(2023)のなかでも両足がない女優ダニエル・ペレスをネタとして登場させていた。

障がいをもった、もってしまった人を聖人のように扱うよりも、思いっきりコメディの一部として組み込むことが、本人にとっては報われるというマインドに、コメディ界がシフトしているのは何となく伝わってくるが、日本がそのマインドは難しいだろうな。NHKの「バリバラ〜障害者情報バラエティー〜」が当事者ではなく、偽善を振りかざした健常者から批判殺到して終了するぐらいだから。

話が少しズレてしまったが、TIFFのQ&Aでも社会風刺や反戦の側面から質問が多く、ヘイリーが「もっと、コメディとしての側面から質問して欲しかった」と言っていたように、これは笑いながら観るのが正解なのだろうし、実際にブッシュ政権が行っていたこと自体がコメディだという大きなオチにもなっているのだ。

ちなみに映画俳優が役作りのために、アトロピアに訪れて戦地体験するシーンがあって、その俳優を演じているのは、なんとチャニング・テイタム!そしてチャニングが登場すると、何だかよくわからないが、おもしろさを感じてしまう。真面目な俳優なのに、いつからネタ俳優になってしまったのだろう……。

総合評価:84点

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