作品情報
監督/脚本:ノ・ヨンワン
プロデューサー/脚本:キム・ウンナ
助監督:チェ・ウォンソク
出演:チェ・ガンヒョン
イ・ジェヨン
キム・ハン
ムン・ソンファン
メン・ジュウォン
- 106分
- カラー
- 韓国語
- 2025年
- 韓国
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【ストーリー】
27歳のミンジュンは、重い荷物を担いで配達を続ける。車のラジオから世界のニュースが流れる。北朝鮮のミサイル発射、原子力発電所の亀裂など、終わりのない不安ばかりだ。朝になると仕事を終え、コンビニの割引食品をトラックの中で静かに食べ、束の間の眠りに落ちる。崩壊した家族が彼の心を痛める。そんなある日、謎めいた占星術師から「私を信じてあなたの光輪に従え」と言われ、心に新たな炎が灯るのだが…。社会の周縁で苦闘する若者を主人公に据え、その労働の反復とズレが不穏なリズムを刻んでいく。

ケン・ローチの『家族を想うとき』(2019)、日本でも『ラストマイル』(2024)でも似たような状況が風刺的に描かれていたが、いつしか個人委託の宅配業者は、労働時間に縛られ、抜け出せない悪循環、底辺の職業の代表格のように描かれることが多くなってしまった。その極みともいえるのが今作だ。
映画監督を夢見る主人公ミンジュンが、家族を気にしつつ、映画を撮る資金を貯めようとするが、全く先が見えない。そのうえ兄には障害があり、父親は飲んだくれ、母は常にいらだっている。実家もドアが上手く閉まらず、電気の接触も悪いなど、かなりガタがきている。生活するのが精いっぱいで、夢にお金や時間をかけられない。人はそうやって社会の労働システムに飲み込まれていく。そんな嫌だけど、リアルそのものな過程を、まじまじと見せつけられていく。仕事と日々の生活サイクルを長尺でじっくり、じっくりと。「ザ・ノンフィクション」でも観ているのかと思うほどに。
そんななかでもミンジュンは、脚本をコツコツと書きながら映画会社に持ち込みをしているが、「この手の作品は現代ではウケが悪いから、とりあえず現場に入って揉まれて成長してはどうか」と提案される。つまり給料がほとんど出ないインターンのようなものから始めろと言われる。これは完全に突き放されたというよりは、かすかな希望を与えられたとも捉えられるが、ミンジュンは現実問題として、そこまでのリスクを冒せる状況ではない。未来の大金(そうなるかはわからない)より、手近な小金の方が優先されてしまうのは、もはや自然の摂理。
配達中に、たまたま出会った有名占い師に運勢を見てもらうと、何をやってもダメな状況にあるが、イギリスに行くと才能が伸びる、活躍できると言わる。光輪とは、風水や占いでよく使用されるワードであり、簡単にいうと、運気の上がるスポットや時期みたいなものだ。精神が弱っている時期は、こういう偶然の出会いを、運命や奇跡のように錯覚しがちで、ミンジュンもイギリスに行くことを目標とするものの、実際問題として、現在の経済状況では無理に等しい。
それどころか、悪いことがあると、さらに悪いことがある。悪循環の連鎖を紐づけして、何か呪われているのではないかと思うようになるし、イギリスに行くことどころか、日々の生活もままならない。負のサイクル、悪循環、負の連鎖…色々と言い方はあるが、悪いものの詰め合わせのようだ。しかしこういった状況に追い込まれている人は、実際問題として、大勢いるだろうと思うと、決してフィクションとして観ていられないソワソワ感が常に漂っている。
監督のキム・ウンナは、今作が長編監督デビュー作となるが、嫌な映画を撮る監督として記憶に刻んでおきたいひとりになった。
総合評価:90点



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