ラジオ番組「バフィーの映画な話」Spotifyなどで毎週配信中!!

第38回東京国際映画祭作品レビュー:13:『白の花実』

第38回東京国際映画祭作品レビュー:13:『白の花実』

作品情報

監督/脚本/編集:坂本悠花里

出演 : 美絽

池端杏慈

蒼戸虹子

河井青葉

岩瀬 亮

門脇 麦

  • 110分
  • カラー
  • 2025年
  • 日本
  • ビターズ・エンド

©2025 BITTERS END/CHIAROSCURO

【ストーリー】

周囲に馴染めず、転校を繰り返す杏菜が、新たな寄宿学校で出会ったのは、美しく完璧な少女・莉花。しかし、莉花は突然、屋上から飛び降りて命を絶ってしまう。残されたのは一冊の《日記》。ページをめくるたび、莉花の苦悩や怒り、痛み――そして、言葉にできなかった“ある秘密”が浮かび上がる。やがて日記から青白く揺れる“鬼火”のような魂が現れ、杏菜の心に静かに入り込み…杏菜は予想もつかない行動へと踏み出す――。

『おばけ』(2014)や『レイのために』(2019)、『木が呼んでいる』(2022)といった、アート性の高い短編を撮ってきた坂本悠花里が挑んだ、初の長編作品。日本公開に先駆けて、すでにサン・セバスティアン国際映画祭や香港アジア映画祭などでも高い評価を受けている。

キリスト教プロテスタントの全寮制女子校に転向してきた杏菜は、学校になじめず孤立していたが、ルームメイトの莉花と唯一の友達になるものの、莉花は誰からも好かれる完璧な優等生。……だったはずなのに、突然、自殺した。インドドラマの「女子高生は泣かない」に似た雰囲気もある作品だ。

どうして自殺したのか、何に悩んで、何に苦しんでいたのか、全く見当がつかない杏菜に莉花の魂が憑依したことから、ふたりの想いが繊細にシンクロしていき、残された日記を辿りながら模索するが、自殺の決定打となるものが何なのかは突き止められずにいた。

その一方で、莉花を愛していた(これが恋愛感情なのか、強い友情や絆なのかはあやふやな部分がある)栞の視点も加わり、莉花の想いを探求することになる。

周りは勝手に想像し、勝手に後悔し、勝手に嘆くが、真実はどこにあるのだろうか。実はそんなものは、極端な話、莉花本人ではないと理解できない。

例え莉花の魂を宿したとしても、それを理解するのは、莉花のマインドそのものにリンクしなければならないし、実際に今作のなかで杏菜がそれをやっているものの、結論として他者が理解できるものではないのだ。

父親から暴力や抑圧を受けていたのか?それも周りの想像に過ぎないし、そこには男=暴力という偏見の目が重なっている。つまり無意識にそれを想像した自身の男に対するイメージや思想が入り混じってしまっていて、その時点で莉花のマインドとは分離してしまっている。自分ことは自分しか理解できないし、他者が理解しているというのは、単にそう思っているだけで、結局のところ別ものだ。

しかし、さらに難しいのが、自分も自分自身というものを理解できていないのが人間というもので、言語化できないし、説明するにも説明できない感情もたくさんある。それらをどう消費し、どう表現するのかという点において、コンテンポラリーダンスが取り入れられているのだ。

人間は他者を理解なんてできるわけがない。他人を勝手に想像して理解者であることに酔いしれている暇があるなら、理解できていない自分のことをもっと理解しようとすることに時間をかけるべきではないだろうか。そんな哲学的メッセージを繊細な映像で描いている。

坂本監督いわく、今まで観てきた映画の印象的なシーンをところどころでオマージュしている部分がある。『バージン・スーサイズ』(1999)や『エコール』(2004)、『乙女の祈り』(1994)といった、感受性の豊な少女の目線から、喪失感や繊細な心の揺らぎを描いた海外映画を日本でやってみたかったとか。ただ、それだけではなく、ジャンルに捉われず、坂本監督が今までの人生で印象的だった様々な映画の記憶と愛を随所に散りばめている。それを探してみるのも楽しいかもしれない。

杏菜役の美絽は目元が印象的でミステリアスな雰囲気をもった女優だと感じたし、その存在感が存分に活かされているが、『ストロベリームーン 余命半年の恋』(2025)にも出演していた、栞役の池端杏慈の演技も素晴らしかった。このふたりは、言葉で表現するというよりも目で語る演技をしていたのだろう。

総合評価:80点

東京国際映画祭作品特集カテゴリの最新記事