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第38回東京国際映画祭作品レビュー:01:『ハッピー・バースデー』

作品情報

【スタッフ/キャスト】

監督/脚本:サラ・ゴーヘル

脚本:モハメド・ディアブ

共同プロデューサー:ジェイミー・フォックス

共同プロデューサー:ダタリ・ターナー

出演:ネリー・カリム

ハナン・モタウィ

ドーハ・ラマダン(新人)

【ストーリー】

カイロの裕福な家庭でメイドとして働く8歳の少女トハ。トハは、雇い主の娘で親友のネリーの誕生日パーティを開くために奔走する。それは親友の誕生日を一緒に祝いたいためだったが、そんなトハの前に現実が立ちはだかる。

マーベルドラマ「ムーンナイト」のプロデューサーとして知られるエジプト系アメリカ人サラ・ゴーヘルの初監督・脚本作品であり、『バック・イン・アクション』(2025)や『デイ・シフト』(2022)などで知られるジェイミー・フォックスとダタリ・ターナーのコンビも共同プロデューサーとして参加し、国内外での上映・配信サポートを行っており、どうやら第98回アカデミー賞・国際長編映画賞のエジプト代表作品として選出されるようだ。

子どもの視点から物事を描くことで、大人とは違った世界や物の見え方を表現した作品はいくつかある。例えば、第36回で上映されたのち、劇場公開された『夏の終わりに願うこと』(2023)やカンヌ国際映画祭に出品された、早川千絵監督作『ルノワール』(2025)は、どちらも子どもの目線から親の”死”を描いた作品だ。

さて今作は、子どもの視点から格差社会を容赦なく映し出している悲しい作品。

主人公のトハ(作品情報ではトーハになっているが、字幕ではトハになっている)は、ネリーが同じ部屋で寝ているが人種が違う。どうやら姉妹ではないようだが、ふたりは仲良し。その日はネリーの誕生日で、いつも以上に興奮していたふたり。

息の合った連携プレイでおねしょを隠蔽(祖母にバレていたが)し、ネリーはスクールバスに乗り込むが、トハは家に残り、家族の手伝いをしている。ここで明確にトハは姉妹というわけではないことがわかる。トハはシングルマザーの母親のいるダマンフールの貧困地域から、住み込みで仕事をしている子どものメイドなのだ。高校生を子どもという言い方をする場合もあるが、トハの場合は、8歳の本当に幼い子ども。

エジプトは児童労働率が極端に高い国というわけではないが、存在しているのは確か。トハが雇われている比較的富裕層ではあるため、どうして大人のメイドを雇わないのかとも思うが、実はそこには理由がある。雇い主のライラは、夫・アーセルと別居(たぶん離婚はまだしてない?)しており、次第に経済的に苦しくなってきていたのだ。そのためネリーの誕生日パーティは内々で行うことで経費を抑えようとしたものの、トハとネリーの猛プッシュ、さらに祖母から、とりあえずカードで支払えば何とかなるがろ~と言われ、仕方なく誕生日パーティをすることに。

誕生日をするからには、周りの目もあることから、去年よりもグレードを落とすどころか、もっと豪華にしなくてはならない。トハが同行。道中、車が渋滞していると後続車が「遅えなぁ~やっぱり女か」と罵倒を浴びせてくるが、トハはすかさず「あんたの母親も女だろっ!」と言い返す、とても強い意志を持っている。そんなトハがモールで見た風景は全てが別世界。お菓子やドレスを買ってもらい、自分が家族の一員になったように思えた最高の瞬間だった。

家に戻り、パーティの準備をしていると、突然、姉がトハを迎えにくる。ダマンフールの母が入院したというのだ。カイロからダマンフールは、2~3時間で行ける距離にあるため、パーティまでに戻る気でいると、どうも様子がおかしい。パーティを開くということは、多くの富裕層たちも家を訪れるため、トハの姿を見せるわけにはいかず、週末だけ帰すようにライラが連絡していたのだ。

そんなことは知らないし、わからないトハ。真実を伝えない母親は、「明日になったら戻っていいから」と遠回しな言い方をするが、「誕生日パーティは絶対に外せないんだっ!
」と、どうしても戻ろうとする。それならばと「魚が全部売れたらね」と言うと、トハはがんばって全部売りさばいてきた。ここはコミカルシーンのようにも演出されていた。

母の目を盗んで、トゥクトゥク(字幕だとトクトクになっていたけど)に乗れる友達に頼んでカイロの家に送ってもらうことに成功。

ネリーもトハに会えて嬉しそうで、パーティにきていたほかの子どもたちも意気投合していたが、ライラに見つかってしまい追い返されることに。そこで家族の一員ではないから厄介払いされた、あくまで使用人でしかない自分の立場を8歳ながらに実感するのだった……。

子どもの目線で格差という埋められない溝、越えられない壁を容赦なく映し出したのは、かなり強烈ではあったものの、これが現実社会なのだ。決してハッピーエンドといえるものではないが、トハには幸せになってもらいたいと強く感じるし、トハ役のドーハ・ラマダンは今作がデビュー作となるが、圧倒的な存在感で、何より子役と思えないほどの演技力を持っているだけに、今後の活躍に期待したい!!

総合評価:92点

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