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第38回東京国際映画祭作品レビュー:14:『TOKYOタクシー』

第38回東京国際映画祭作品レビュー:14:『TOKYOタクシー』

作品情報

監督 : ガブリエル・マスカロ

監督:山田洋次

脚本:山田洋次、朝原雄三

出演:倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優、優香、イ・ジュニョン、中島瑠菜ほか

原作:映画「パリタクシー」(監督 クリスチャン・カリオン)

配給:松竹

©2025映画「TOKYOタクシー」製作委員会

10月31日(金)全国公開

【ストーリー】

タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)は、ある日85歳の高野すみれ(倍賞千恵子)を東京・柴又から、神奈川の葉山にある高齢者施設まで送ることになった。すみれは浩二に、「東京の見納めに、いくつか寄ってみたいところがある」と寄り道を依頼する。タクシーで旅を共にするうち次第に心を許したすみれは、自らの壮絶な過去を語り始める。偶然出会った二人の心が、そして人生が大きく動いていくことになる――。

『武士の一分』(2006)以来となる、山田洋次と木村拓哉19年ぶりのタッグ作!同作を制作する際に、時代劇でることをあえて意識せずに、木村拓哉そのままでの演技を望んでいたが、今作においても、木村拓哉は木村拓哉のままだ。なかには、それが嫌だという人もいるが、作品によってはそれが活きることもある。結論から言うと、今作は上手くいっている方だ。

一方、倍賞千恵子といえば「男はつらいよ」シリーズのさくら役で知られているが、山田作品のヒロインは、84歳になった今でもヒロインのままだと実感させられた。

そんなふたりが共演するのは、アニメ映画としては『ハウルの動く城』(2004)があったものの、実写映画としては初めてとなるのも興味深い。

それ以外にも注目すべき点がある。それは今作がフランス映画『パリタクシー』(2022)のリメイクということだ。『家族はつらいよ』(2016)や『幸福の黄色いハンカチ』(1977)など、山田洋次の作品が海外でリメイクされたことは何度かあったし、影響を与えた作品も多々ある。小津安二郎の『東京物語』(1953)を現代的視点で映画化した『東京家族』(2012)もあったが、海外作品をリメイクしたのは今回が初めてだ。御年94歳にして新たなチャレンジをしてみせるとは、つくづく驚かされる。

『パリタクシー』自体が、例えば『おとなの事情』(2016)や『ブラインド』(2011)のように、設定を他国に変更しても通用するプロットであることから、舞台が日本に置き換えられたことに、ほとんど支障はなかった。戦争の記憶を辿る点もナチスのジェノサイドから東京大空襲に置き換えられ、DV夫に復讐した過去、法廷劇など、大まかな流れはそのまま描かれていて、上映時間もほぼ一緒だ。ところがキャラクターの奥行は圧倒的に増していたし、キャラクター数自体も増えている。だからといって、それが力業で詰め込まれているのではなく、自然なかたちで、上手くエピソードが配分されていながら、原作とは、また違ったかたちで構成、拡張されているのだ。

『パリタクシー』の場合も、タクシー運転手シャルルは、経済難に苦しんでいたが、そこにはケン・ローチの『家族を想うとき』(2019)のように、ヨーロッパにおける労働問題によって、仕方なく個人事業主になるしかない現実を浮き彫りにしていた。しかしそこは、日本らしい理由に置き換えられていて、確かに経済難ではあるものの、国の経済問題はチラついていなかった。社会派ではなく、庶民派に変換され、具体的に何に、どれだけのお金が必要なのかが、必要以上に鮮明に描かれていた。そこは「家族はつらいよ」シリーズなどで日本の等身大な家庭像を鮮明に描き続けてきた山田作品ならでは拘りにも思えたし、観客が感情移入しやすい点だろう。

常にお金に追われていた宇佐美にとって、単なるお金のための客が、いつしか対話の相手に変化しく。そんな相手に代金を請求するというのは、短い時間で築かれた絆のようなものが、あくまでビジネスだったと、振り出しに戻ってしまう気がしてならい。葛藤の末にある宇佐美の選択は見どころのひとつだ。

『パリタクシー』も同じ葛藤が描かれているものの、これは日本人としての立場がそう思わせているのかもしれないが、今作の方が身近なものとして感じることができた。そんな純粋に人を想える場面が、今の時代にいくつ散らばっているというのだろうか。綺麗ごとかもしれないが、お金に執着しない生き方こそが、結果的に対価に繋がっていくという教訓を教わっているようだ。

そして今作には観光映画としての側面もあった。パリの街並みが、山田作品ではお馴染みともいえる東京の下町に変化して、過去と現在の対比を浮き上がらせる。同じ時代を生きた客層であれば懐かしさに溢れている風景に感じるだろう。また、国外からの視点とすれば、楽しい風景のひとつになっているはずだ。

意外な部分で驚かされたことがある。それは優香が6年ぶりの映画出演をしていたことだ。しかも昭和女優のようなリアクションをする演技になっていた。志村けんのコントの影響だろうか。あえてそうしていたのか、自然とそうなっていたのかは不明だが、なんだか妙な味わい深さを感じた。

総合評価:80点

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