作品情報
鬼才ジム・ジャームッシュがビル・マーレイとアダム・ドライバーを主演にメガホンをとったゾンビコメディ。アメリカの田舎町センターヴィルにある警察署に勤務するロバートソン署長とピーターソン巡査、モリソン巡査は、他愛のない住人のトラブルの対応に日々追われていた。しかし、ダイナーで起こった変死事件から事態は一変。墓場から死者が次々とよみがえり、ゾンビが町にあふれかえってしまう。3人は日本刀を片手に救世主のごとく現れた葬儀屋のゼルダとともにゾンビたちと対峙していくが……。ジャームッシュ作品常連のマーレイ、『パターソン』に続きジャームッシュ組参加となるドライバーのほか、ティルダ・スウィントン、クロエ・セビニー、スティーブ・ブシェーミ、トム・ウェイツ、セレーナ・ゴメス、ダニー・クローバー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、イギー・ポップらが顔をそろえる。2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。
『デッド・ドント・ダイ』レビュー

この映画は説明するのが非常に難しいのだが、ざっくり言うと「ゾンビ映画ってこうでしょ??」といった様なメタ構造映画だ。
田舎町が舞台で、普段から殺人なんてことは起きない穏やかな環境のため、警察も本格的な事件に慣れていないことから、手際の悪さがユルさを醸し出している。
ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、クロエ・ゼヴィニーなど錚々たる俳優陣が出演しているのだから、真面目な映画かと見せかけておいて、かなりのお遊びバカ映画である。
こんな豪華キャストだからバカ映画じゃないでしょ…えっ!バカ映画なの!!というパッケージから、すでにギャグになっているのだ。
死者が復活する理由も、地球の自転が北極の工事によっておかしくなったことが原因という、何だか突拍子もないことが原因なのだが、近年のホラー映画だと、起きた事態にそれなりの説明っていうのがあって、れらしいことを説明してくれるから、納得した気になるのだが、結局はモンスターやゾンビが出現するなんてことはバカな話なのだから、きっかけなんて適当でいいんだよ。なんて声が聞こえてきそうである。
確かに、60年~80年代のカルシホラー映画は、何だかよくわからないことが原因でモンスターやゾンビが出現していたことを考えると、それを踏まえてのオマージュネタなのである。
キャラクター達も個性豊かではあるが、これまた「ゾンビ映画ってこういう人いるよね?」ってネタになっているのだ。
たまたま立ち寄った若者グループやホラー映画オタク、何故か武器を華麗に使いこなす女性、やたら叫ぶ女性という、ゾンビ映画にいそうなキャラのオンバレード!!

監督のジム・ジャームッシュは、どうやらセレーナ・ゴメスが好きらしいのだが、彼女が去る際のキラキラ演出は、実にバカである。
セレーナ・ゴメス好きなのであれば、活躍の場をもっと与えてあげれば良いと思うが、あの末路は…酷い!セレーナ・ゴメスファンの方は、覚悟して観た方がいいかもしれない。
ホラー映画オタクのボビーも映画の知識を使って、ルールを作ることでピンチを乗り越えるのかと思えば、かなり中途半端なキャラクターである。
特にアダム・ドライバー演じるロニーは、今作が映画であることを知っているのだ。
オープニングでカントリー歌手スタージル・シンプソンによるオリジナル曲「デッド・ドント・ダイ」が流れ、その後パトカーの中でラジオをつけると、たまたまその曲が流れていることに対して、ビル・マーレイが演じるクリフは「何だか聴いたことのあるような曲だ」と言うと、ロニーが「テーマソングだからだよ」と答える。その後も「台本に書いてある」など、所々にメタ的視点を入れてくるキャラクターであるが結局、最終的には扱いに飽きてしまっている様でならない。
ネタ構造、メタ構造は別にしたいだけしてもいいと思うのだが、個性キャラクターの量産によって、全体的に散らかってしまった末のキャラクターの不自然行動がどうしても目についてしまって、キャラクターが末路に向かうプロセスが強引で雑であるのは、難点だと言えるだろう。
そこもネタだよ…と言われてしまえば、おしまいではあるのだが、そこまで行ってしまうと、もはや映画としての構造が壊れてしまう。
今作は、好き嫌いが凄く分かれる作品であることは間違いないが、もともとアート的視点が強い作家として知られているジム・ジャームッシュがついに本格的に壊れてきたのか、今回りのお遊びなのかは不明だ。

点数 72点
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