作品情報
ゾンビウィルスのパンデミックが収束した後の世界を舞台に、ウィルスの感染から回復した人々が、ゾンビであった時の記憶や社会の圧力に苦悩する姿を描いた異色の近未来スリラー。人間を凶暴化させる新種の病原体「メイズ・ウイルス」のパンデミックが巻き起こったアイルランド。6年後、治療法が発見されたことで社会は秩序を取り戻し、感染から治癒した人々が「回復者」として社会復帰する。回復者の青年セナンは、義姉アビーのもとに身を寄せるが、社会では回復者を恐れる人々が抗議デモを行い、理不尽な差別を繰り返していく。やがて、そんな状況に不満を抱いた回復者たちのグループが、社会への報復テロを計画する。監督はアイルランドの新人デヴィッド・フレイン。出演は『JUNO ジュノ』『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』のエレン・ペイジ、『二ツ星の料理人』『白鯨との闘い』のサム・キーリーなど。
『キュアード』レビュー
感染してゾンビ化した人間が元に戻ったら…という題材の映画やドラマは、今となっては、斬新ではない。例えば『ウォームボディーズ』では、ゾンビに心が芽生えて、人間に戻る恋愛コメディ映画として描かれていたし、人間に戻ることがハッピーエンドのように描かれてきた。
しかし、今作はゾンビ化を治す治療薬が開発されたことで、7割以上の感染者は人間に戻ることができるというパンデミック終息後、社会復帰をする元ゾンビ達を襲う新たな苦悩を徹底的に描いた作品という点で斬新だ。
ゾンビ化は治っても、ゾンビ化していた記憶は残っており、人を殺した記憶、特に大切な者を殺してしまったという苦悩は計り知れない。
ゾンビ化していたからだとしても、世間は治った後でも殺人鬼のような扱いをする。
客観的に見れば、ゾンビ化していたのだから、家族を殺したとしても許されるべきであるという世間の声があっても、それがもし自分の家族であったら…となると感情が表に出てしまって、直視することができない。
これは、ゾンビという空想上の設定とされていることで、現実味があまりないようにも思えるかもしれないが、依存症や精神病でもこの苦悩は当てはまる。
ファンタジーのように誇張されているといっても、突発的に人を傷つけてしまった者の苦悩というのは、癒せない深い傷として一生残るものだ。
今作は、ゾンビのもしも…という設定を突き詰めた作品として繊細にも残酷にも描いているわけだが、現実社会に共通する自分の考えや概念、価値観にそぐわない人間を差別や迫害するという考え方も感染するという、人間の心理を逆なでする攻撃的メッセージも秘めた社会風刺作品でもあるのだ。
『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』では、壁を通り抜けるミュータントのキティ・ブライト役を演じていたエレン・ペイジ。「X-MEN」は映画版もコミックもアニメも一貫して描いているのは、差別や迫害だが、それとは対照的な役どころも注目だ。
点数 79点
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