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この映画語らせて!ズバッと評論!!『ラスト・クリスマス』ワム!の名曲を独特の解釈で描く

この映画語らせて!ズバッと評論!!『ラスト・クリスマス』ワム!の名曲を独特の解釈で描く

作品情報

1984年の発売以降、クリスマスの定番ソングとして全世界で愛されている「ワム!」の「ラスト・クリスマス」をモチーフに、『ゲーム・オブ・スローンズ』『世界一キライなあなたに』のエミリア・クラークと『クレイジー・リッチ!』『シンプル・フェイバー』のヘンリー・ゴールディング主演で描いたロマンチックコメディ。ロンドンのクリスマスショップで働くケイト。華やかな店内で妖精エルフのコスチュームに身をまとうケイトは仕事に身が入らず、乱れがちな生活を送っていた。そんなある日、ケイトの前に不思議な青年トム現れる。トムはケイトが抱えるさまざまな問題を見抜き、彼女に答えを導き出してくれた。そんなトムにケイトは心をときめかせるが、2人の距離は一向に縮まることはなかった。やがてケイトはトムの真実を知ることとなるが……。脚本は『いつか晴れた日』でアカデミー脚色賞を受賞し、女優として本作にも出演する『メン・イン・ブラック インターナショナル』『二ツ星の料理人』のエマ・トンプソン。監督は『シンプル・フェイバー』『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン 』のポール・フェイグ。

『ラスト・クリスマス』レビュー

ゲイでもないというのに、女性の内面を描くのが上手い英国紳士監督のポール・フェイグによる恋愛映画とみせかけてのスピリチュアル・ファンタジーというハイブリッド作品。

前作の『シンプル・フェイバー』もミステリーとみせかけてコメディに着地しているという「~とみせかけて」というスタイルが定着しつつあるだけに、今回も直球の恋愛映画ではないだろうと思っていたが、案の定、ハイブリッド作品であった。

もちろん毎度おなじみのシニカル要素も入っている。

ワム!の名曲でクリスマスソングの定番中の定番である「ラストクリスマス」は、去年のクリスマスに恋人と別れたという失恋ソングであるが、言葉のもつ意味を別解釈することで、単なる恋愛映画ではなく、去年のクリスマスに何かを失ってしまった主人公ケイトの物語に仕立てている。

ギリギリ確信には触れてないから、少しだけネタバレになってしまうがケイトが失ったのは、心臓であり情熱であり魂ということ。

映画を観ていて、疑問でならなかったのがケイトの人生の目的である。歌手になりたいと思っている割には、歌に感情が感じられないし、歌声も微妙だ。こんな調子では物語が成り立たないし、エミリア・クラーク歌下手でミスキャスティングじゃないか!とも思ってしまうが、実はそうではなく、彼女はこの時点では、歌に対する情熱を失ってしまっているのだ。

むしろエミリア・クラークは、かつてドルチェ&ガッバーナのCMの中でイタリア語で歌っているし、その後のシーンでもわかる通り歌が決して下手ではない。演出だったのだ。

海外ドラマの『バフィー 恋する十字架』シーズン5のラストでバフィーが妹を救うために、自ら命を絶つが、シーズン6の冒頭で甦ることになる。甦ったバフィーは、今までの辛い戦いの日々から解放されたことで死を受け入れていたのだが、自分の意思に反して甦ってしまったことで、自分には情熱が失われていて、常に喪失感に悩むことになる。

ネタバレになってしまうため、詳しくは言えないが、ケイトの心境は、この時のバフィーの心境に似ているのだ。常に喪失感を抱えてしまっていて、母親の元に帰ることで、自分が特別な存在であるという扱いをされることが嫌になってしまっている状態なのだ。

そんな時に出合うのがヘンリー・ゴールディング演じるトム。どこからともなく表れて、偶然その場にいたりするストーカーの様なトムに不信感を抱きつつも、次第にケイトの心の支えになっていく。

ヘンリー・ゴールディングは、ポール・フェイグの前作『シンプル・フェイバー』にも出演しており、監督のお気に入りの監督であるが、『クレイジー・リチ!』で注目されてしまったため、キャスティングが難しくなる前に、もう一度オファーしていたのだ。

個人的な感覚だが、先にハリウッドで成功しているイ・ビョンホンと比べてしまうと、どうも地味でイケメンとは思うことができないだけに、別にイケメンキャラじゃなければ良い俳優だと思うが、あからさまにイケメン的行為をすると少しイラっとしてしまうのは私だけだろうか。

『クレイジー・リッチ!』では、ヘンリーが演じていたニックの母親役を演じていたミシェル・ヨーも今作に出演していて、どうしても『クレイジー・リッチ!』の印象があるし、同じアジア系俳優という共通点からか、ミシェル・ヨー演じるサンタとトムとの関係性を疑って観てしまいがちになってしまうのだが、これはポール・フェイグの罠ではないだろうか。

トムとサンタの関係性に視点を逸らさせることで、トム自体の正体に疑いがかかるのを和らげているのだ。この演出は、世間の印象を巧みに使っていて、流石と言うしかないだろう。

ちなみにサンタがオーナーを務め、ケイトが働いている一年中クリスマス用品を売っている「クリスマス・ショップ」だが、1年に1度しかないイベントのグッズ販売で成り立っているはずがないと思うかもしれないが、この「クリスマス・ショップ」はイギリスのロンドンに実際にあって、お休みはあるものの、ほぼ1年中営業していたり、アメリカのミシガン州にもあるとうことで、映画のために作った突拍子もない設定ではないのだ。

全体的に残念な部分があるとしたら、音楽の使い方である。テーマとなっている『ラスト・クリスマス』に関しては、申し分ないぐらい上手く使用されているが、その他のワム!の名曲が、シーンごとに印象付けるアクセントというより、単にBGMと化してしまっている部分である。

曲により過ぎてしまっても、物語の軸が霞んでしまうかもしれないが、ワム!の曲が使用できるというチャンスだからこそ、もう少し「ラスト・クリスマス」以外の曲の歌詞にも寄せたシーンを盛り込んでほしかったし、そういうシーンはあるが、アクセントとしては弱いと感じてしまった。

どうでもいいことだが、ひとつ気になったことがあって、ケイトが鍵を閉め忘れた日に泥棒が店に入るという事件がある。よく観るとガラスを割られて侵入されているのだから、仮に鍵を閉めていたとしても泥棒に入られていたと思う。

点数 88点

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