作品情報
孤児院経営者ロイは「人格形成は環境から」という持論を持っていた。そこで孤児である2組の双子の赤子を入れ替え、バンガロールの富豪チョーハーン家とウーティーのサーカス団長シェノイ家に養子に出した。彼らはそれぞれロイ、ジョイと名付けられ、長じて一堂に会し、騒動が巻き起こる。
『サーカス』レビュー
今作の監督であるローヒト・シェッティは、海外作品の影響を常に受けている監督のひとりであり、『勇者は再び巡り会う』や『スーリヤヴァンシー』などでも、多くのハリウッドオマージュを感じることができる。
今作にいたっても、恐らくウェス・アンダーソン的な世界観を目指しているのだろうし、人物と背景の合成が上手くいっていないシーンもあったりするが、それにしてもインド映画ではなかなか見ることのできない奇抜すぎる色彩センスは見事としか言いようがない。
作品自体が良い悪いは置いといて、アート映画として通用するだろう。
ロケーションに詳しくないため、もしかしたら違うかもしれないが、ローヒトが監督した『Golmaal Again』の作中曲「Maine Tujhko Dekha」でパリニーティ・チョープラー(『ディシューム』『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』)とアジャイ・デーヴガン(『Thank God』『RRR』)が自転車で走っているシーンで登場した茶畑も今作の世界観に合うように効果的に使用されている。
また中盤のダンスナンバー「Current Laga Re」では、ディーピカー・パードゥコーン(『ハッピー・ニュー・イヤー』『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』)もサプライズ登場を果たしており、ランヴィールとディーピカーは実生活で夫婦なだけに夫婦共演、ダンスが観れるのは大きな注目点で圧倒的な破壊力をもっている。
そのシーンがあるだけで前半のユルくて大しておもしろくもないコテコテのギャグシーンの嫌な記憶を吹き飛ばしてくれる。
ディーピカーがローヒトの作品に出演するのは『チェンナイ・エクスプレス 〜愛と勇気のヒーロー参上〜』以来となることから、久しぶりの再会の想いを込めて、同作のアンテムナンバー「One Two Three Four」がサンプリングされているだけに、このシーンをスクリーンで観るだけでも価値のある作品だ。
ちなみにディーピカーはローヒトが手掛ける「コップ・ユニバース」の最新作『シンバ:アゲイン』にも出演予定でもある。
前半の嫌な記憶は、この曲によって吹き飛ばしてくれるものの後半の音楽は微妙なものが多く、色彩などのビジュアル面では前半同様に楽しめるものの、 ジョニー・レバーやヴァルン・シャルマ、サンジェイ・ミスラといった『勇者は再び巡り会う』などのローヒト作品に出演しているコメディリリーフ組がこぞって出演している。
それによってコテコテのギャグシーンがてんこ盛りで恥ずかしくて観ていられないし、頻繁に見せつけられる顔芸は悪夢だ。
偶然にも『愛しのモニカ』の「Yeh Ek Zindagi」でインスパイアされていた1971年のインド映画『キャラバン』の作中曲でアシャ・ボスレの「Piya Tu Ab To Aaja」が今作では直接的に使用されていた。コメディドラマシリーズの「Happu Ki Ultan Paltan」でも使用されているし、70年代を代表する曲だからということはあるが、 2023年の年末に「Piya Tu Ab To Aaja」を別々の映画で聴くことになるとは思いもしなかったというのは、どうでもいい話だが、70年代インドのメジャー曲が何気にBGM的に使用されているのも注目だ。
今作に限ったことではないが、どうもインドのコメディ映画はジャッキー・チェンや「Mr.BOO」シリーズなどの中国コメディが下敷きにあるからなのか、コテコテギャグの連続だし、効果音も昭和喜劇やギャグアニメのようなものが多い。
というか、そもそもローヒトはコメディ映画を得意といわれているが、明らかにコメディには向いていないから、即刻コメディ映画を撮ることや、シリアスな作品やアクショ映画にコメディ要素を取り入れるのはやめてもらいたい……。
海外映画から様々なセンスを学んでいるというのに、コメディ部分だけをなぜ学んでくれないのかが不思議でならない。
個人的にローヒト作品に関しては擁護派ではあるが、ここ10年で制作されたローヒト作品の中で一番嫌いな作品となった。
点数 75
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